総裁選からトーンダウンした? 岸田首相の公約 坂東太郎のよく分かる時事用語
岸田文雄首相が9月の自民党総裁選で訴えてきた公約が、首相就任後の所信表明演説(10月8日)や代表質問(同11日~13日)、そして衆議院選(31日投開票)に向けた自民党の公約においてトーンダウンしてきたとの指摘があります。 【年表】安倍政権「7年8か月」を振り返る アベノミクスから安保法制、コロナ禍まで そこで、総裁選公約や所信表明演説、党の衆院選公約を項目ごとに検証しつつ、どう変遷したのか、したとして妥当性はあるのかなどについて考えていきます。
●新自由主義からの転換
岸田氏は総裁選の公約として、政策集に「新しい日本型資本主義 新自由主義からの転換」とうたいました。立候補表明後の9月8日の会見では「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」とまで踏み込んだので、「安倍晋三×菅義偉」政権の経済政策をも大胆に変更するかのような受け止め方が一時広がったのです。 「新自由主義」の概念は多義的ですが、一般に市場原理を重視して「小さな政府」の下で規制改革を進める方向性と受け止められます。 どう転換するのか。総裁選で盛んに唱えたのが「分配なくして次の成長なし」でした。後述する他の主張を合わせると、富裕層などの課税を強化して低所得者らに「分配」する方向転換を図ったとの観測もなされたのです。 しかし所信表明演説では、その意図を「成長の果実を、しっかりと分配すること」と説明し、「大切なのは『成長と分配の好循環』」であり、「成長か、分配か」は「不毛な議論」だと一蹴。「成長と分配の好循環」は安倍晋三元首相も唱えていたフレーズなので、その方向性から決別するつもりはなく、維持した上での修正とのもくろみのようです。
●令和版所得倍増
「令和版所得倍増」も、総裁選で「新しい日本型資本主義」を構築する展望の一つとして打ち出されましたが、所信表明演説からは消え、衆院選に向けた自民党公約にも「分配によって所得を増やす」との趣旨の記載があるのみで、令和版所得倍増の文言はありません。 元祖「所得倍増」計画とは、岸田氏が率いる党内派閥「宏池会」創設者である池田勇人元首相が、高度成長期の1960(昭和35)年に打ち出した「10年間で国民総生産を2倍にする」という経済目標のことで、そのまま「令和版」が実現できる情勢でないのは明らか。岸田氏が名門・宏池会の正統継承者として党員らの郷愁に訴えるための方便であった嫌いもあると思われます。