防衛費増に走る日本政府が本来重視すべきは? 「コミュニケーション問題」としてのウクライナ戦争
太平洋戦争のコミュニケーション問題
この三つのカテゴリーを日本の太平洋戦争に当てはめて考えてみよう。 カテゴリー1・日米両国は互いに相手の交戦意志を低く見積もっていた。特に日本によるアメリカの戦力と戦争意志に対する情報の収集と分析は不十分であった。 カテゴリー2・日本には総合的な戦略を描くリーダーが欠如していた。その結果として、指導層と軍人と国民とのコミュニケーションに齟齬が生まれた。国民の団結は強かったが、多分に情緒的家族的なもので合理的な意志によるものではなかった。一部指導層の早期講和という目論見も国民の激情的な戦意高揚(ナショナリズム)によって消えてしまった。 カテゴリー3・松岡洋右全権の国際連盟脱退劇はカッコよく国民の大向こうウケをしたが、そのあとのドイツ、イタリアとの同盟は、連合国側と比較して、国際的多数派を形成できなかった。大東亜共栄圏というキャッチフレーズも東アジア全体の支持を得るものではなかった。 以上、太平洋戦争の惨憺たる敗北は、上記カテゴリーのすべてにおけるコミュニケーションの不全が招いたものと考えられる。
中国の軍事拡張とコミュニケーション
現在、中国の軍事拡張がアメリカを中心とする西側と対立しているが、これも三つのカテゴリーで考えよう。 カテゴリー1・鄧小平の改革開放を受け継ごうとした胡錦濤政権に比べて、毛沢東に回帰しようとする習近平政権の軍事拡張路線は、中国政権の予想以上に、周辺諸国及びアメリカを中心とする西側諸国との対立を深めている。しかしそれがそのままクラッシュ(軍事衝突)に至るとはいいきれない。中国は路線を修正して、アメリカ、台湾、日本、東南アジア各国などに対して個別のコミュニケーションによる関係改善を進めようとしているようにも見える。 カテゴリー2・経済の停滞にともなって中国国内には不満が高まっている。今はそれが新型コロナ対策をめぐって激化している。監視と強権の社会にも閉塞感が強く、中国共産党内部も一枚岩ではないようだ。今後、中国内部のコミュニケーション状況に世界の注目が集まる。 カテゴリー3・中国の軍事及びそれと一体化した経済(特に半導体など)の拡大に対する西側の包囲網が強まっている。しかしそれがそのまま世界的な中国包囲網となるかどうか。世界の多くの国には、植民地主義の歴史をもつ西側先進国に対する反感も弱くはない。一帯一路という方針はその反感による共通性に中国が食い込もうというものだ。 中国という近隣大国をめぐるコミュニケーション問題、特にカテゴリー2と3については予断を許さない。