乳がん女性たちの大きな苦痛「外見の問題」。乳房再建が進まない理由とは?
日本女性の9人に1人がかかる乳がん。治療の進歩で命が救われ、治せるがんになってきている。けれども手術によって乳房を失うことはある。失った乳房を取り戻す治療が「乳房再建」。この治療が進んでいない日本の現状と理由を取材した。
乳房再建など、外見の問題の重要性が叫ばれる今
乳がんは、大腸がん、胃がん、子宮がんに比べて増加率が著しく、若い世代の発症が多いのも特徴だ。20年後の発症予測でも乳がんは1位とされ、今後も減ってはいかないがんとされている*1。 また、発症率が上がっても亡くなる人が比較的少ないがんのため、ただ治すだけでなく、罹患後の長い人生を考える必要のあるがんだ。 手術後、胸に傷あとが残る、左右のバランスが悪く肩こりや腰痛が起こるなど、日常生活の中で不便さや不自由さを感じたり、乳房を失って精神的苦痛が残る人も少なくない。命は助かっても、QOL(生活の質)の著しい低下を感じる人もいる。 これまでは、がん治療による吐き気、手足のしびれ、全身の痛みなどをケアすることに一生懸命になっていた医療者たち。しかし働きながらの通院による治療が増えたことで、乳がんになった女性たちの苦痛やつらさの内容が変わってきたのだ。 *1 Lola Rahib,et al. JAMA Netw Open 2021;4;e214708
ある調査研究では、乳がんになった女性が何にいちばん苦痛を感じるかの質問に、「外見の問題(乳房切除、髪の脱毛、眉の脱毛、まつ毛の脱毛など)」という答えが上位60%を占めていた*2。 外見のケアのことをアピアランスケアといい、その重要性が医療者の中でも注目されている。なかでも乳房再建は、アピアランスケアの一丁目一番地。乳房再建は、乳がんの手術で失ったり変形した乳房を、新しく作り直す手術だ。 外見の変化は、社会生活に大きく影響することも明らかになっていて、「外出の機会が減った」「人と会うのが億劫になった」「仕事や学校をやめたり休んだりした」という人が約40%というデータもある*3。今まで、医療者のあいだであまり注目を集めることのなかった外見の問題に、ここ数年、フォーカスが当たってきているのだ。 *2 野澤桂子ほか編『臨床で活かす がん患者のアピアランスケア』1版 2017,南山堂 *3 Nozawa K,et al.Distress and impacts on daily life from appearance changes due to cancer treatment:A survey of 1,034 patients in Japan. Global Health & Medicine 2023;5(1)