じつは、「起こりそうもない」ときに起きやすい…低体温症を起こしやすい「意外だけど、納得の条件」
低山でも起こる
春や秋には、1000m以下の低山でも低体温症が起こっています。冷たい雨風に打たれて全身が濡れたうえに、疲労していたり、エネルギー補給が不十分だと、体熱を十分に産生できず、低体温症にかかります。トレイルランナーのように、最低限の衣類・装備・食料で、体力の限界に近いところで運動する人も、一歩まちがえば低体温症に陥る危険性がある、という自覚が必要です。 冬山では、寒さや風は強くても、雨で濡れることは少ないので、低体温症の事故件数はむしろ少なくなります。ただし、長時間行動で疲労しきってしまい、エネルギー補給も不十分であれば、熱産生能力が落ちて低体温症が起こります。昔はこのようなタイプの事故が多く、「疲労凍死」という用語が使われていました。明治35年に八甲田山中を行軍して、199名の将兵が死亡した大遭難はその典型です。 しかし現代の低体温症遭難は、冬以外の季節に、もっと短時間のうちに起こっている場合が多い、という新しい認識が必要なのです。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)