平地だったら「転ぶだけ」と思いがち…じつは、山での「下りで脚がガクガク」は、「滑落事故」につながっている「驚愕のデータ」
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】下りで多い山の事故。下りは「バランス能力が激低下する」ことを証明した実験 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、昨今耳にする山岳事故と身体トラブルの関係についてご紹介します。事故を防ぐには、からだの不調を未然に防ぐことが大切なことがわかります。じつは、事故につながる4つの身体トラブルが見えてきました。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
山でどんな身体トラブルが起こっているのか
まず、登山者が山でどんなトラブルを起こしているのかを、データで見てみます。 図「身体トラブルの発生状況(日本百名山を目指す登山者のアンケートから)」は、7000人あまりの中高年登山者に訊ねた、身体トラブルの発生状況です。「中高年のための登山学ーー日本百名山を目指すII」というNHK番組のテキストにアンケート用紙を添付して集めたもので、百名山を登っている途上の登山者が多く含まれています。これを見ると、「筋肉痛」「下りで脚がガクガクになる」「膝の痛み」が最多で、次に「上りで苦しい」が続いています。 その下の図「登山コースの体力度別に見た身体トラブルの発生状況」は、登山コースの体力度との関連から、トラブルの発生状況を見たものです。登山のガイドブックには、初心者向け、一般向け、健脚者向けなどと、体力的なランクがつけられていますが、それぞれのコースを歩いたときに起こるトラブルを重ねたものです。これは、国立登山研修所の講習会に参加した、登山経験の豊富な中高年登山者に回答してもらったものです。 これを見ると、初心者コースでトラブルを起こしている人はほとんどいませんが、一般コースでは少し増え、健脚コースになると大幅に増加しています。健脚コースで多いトラブルを見ると、上位4つは「筋肉痛」「膝の痛み」「下りで脚がガクガクになる」「上りでの息切れ」で、上の登山者のアンケートによる「身体トラブルの発生状況」で上位に来ていたものと同じです。 筆者たちはこれまで、機会あるごとにこのような調査をしてきましたが、この4つのトラブルは年齢や性別に関係なく多く起こっているのが特徴です。 そこで、これらを「4大トラブル」と呼ぶことにします。読者の皆さんの中にも、これらのトラブルを経験したことのある人は多いでしょう。4大トラブルは事故の引き金にもなるので、その要因と防止対策については、誰もが知っておくべきです。 なお、ここにあげた2つのアンケート結果とも、自分でテレビ番組のテキストを購入したり、講習会に参加したりする、意識の高い登山者から集めたデータです。それでもトラブルを起こしている人がこれだけいるのです。それ以外の登山者の状況は、もっと深刻な可能性もあります。