コンビニのおにぎりが無くなる!? 和食の危機と希望
── 本当ですね。形だけでなく色も少しずつ違います。 鈴木 A社の具は何の鮭か分からなかったんですが、食品表示を確認すると、B社はアトランティックサーモンという、ノルウェーの海で養殖されている高級な鮭を使っていました。価格も248円で一番高かったです。C社の鮭は、チリから輸入しているギンザケを使っているようです。 チリのギンザケを含め、輸入鮭の値段は総じて上がっていますし、日本での漁獲量も減っています。だからコンビニのおにぎりが生き残るためには、安いシロザケのフレークを使って低価格を守るか、ベニザケやアトランティックサーモンを使って高級路線で行くか、というところだと思います。 ── 鮭の品種や、それに伴う違いは意識したことがなかったんですが、こんなに差があるんですね。
【海苔】複合的な理由で廃業が相次ぐ
鈴木 次は海苔です。最近、お米のおいしさや品質を全面に出して、海苔を使わないおにぎりも売られていますよね。 ── そういえば、よく見かけますね。 鈴木 背景には、海苔の不漁があります。全国の海苔生産は、2000年頃からずっと減少傾向にありましたが、ここ2、3年で不作が続き、大騒ぎになっています。 ── そうだったんですね! 鈴木 海苔養殖がはじまったのは江戸時代と言われています。ですが、当時は海苔の生態が分かっていなかったので、安定した生産はできていませんでした。全国で海苔養殖が行なわれるようになったのは、1949年に海苔の生態が明らかになって以降です。 昔は海苔が高級品だったので、贈答用とか冠婚葬祭、特にお葬式やお歳暮といったシチュエーションでよく使われていました。最近は、そうした習慣も減りつつありますよね。だから、海苔業界の中で、コンビニのおにぎりの海苔はすごく重要なマーケットになっています。 鈴木 海苔養殖は、浅い海に「ひび」とよばれる細い棒をたてて行なわれるのが昔ながらの方法。なので、松島湾、東京湾、三河湾、瀬戸内海、有明海といった浅い海では、以前からさかんに行なわれていました。でも、2003年に約6500あった全国の海苔養殖の業者は、2018年には約3400に半減しています。 とくに、千葉県や、香川、徳島など瀬戸内海の産地では、養殖業者の数は大幅に減っています。そのため相対的に有明海への依存度が高まっていました。現在では、全国の海苔生産の半分以上が、有明海(福岡、熊本、佐賀)で行なわれています。コンビニのおにぎりの多くに「有明海産の海苔使用」と書かれていますが、そういう事情もあったのです。 ところが、有明の海苔の生産量が2022年シーズンあたりからガクッと落ちており、海苔の需給バランスが崩れています。 ── 有明海で何があったんでしょうか。 鈴木 漁師さんに聞いたら、「色落ち」が大きな問題になっているとおっしゃっていました。海苔の色が黒くならず、黄緑色のような色になってしまうんですね。これは、海の栄養不足が原因だと言われています。有明海では夏だけ発生していた赤潮が冬にも発生するようになっているようなんですね。赤潮というのは、植物プランクトンなのですが、これが大量発生することによって、海苔に必要な栄養塩を消費してしまうようなんです。 また、雨不足も原因のようです。雨が降って山の栄養が海に運ばれることで、海苔に必要な栄養分が海に溶けだすのですが、降ってほしい時期に雨が降らない。諫早湾の干拓が原因で、海の水の流れが滞り、攪拌されず海面の透明度が上がったために、赤潮が発生しやすくなっている、という指摘もありました。さらに、有明海ではタイラギなどの貝類が減っていますが、プランクトンを食べる貝類がいなくなったことで、赤潮が発生しやすくなっているという声もあります。