コンビニのおにぎりが無くなる!? 和食の危機と希望
── 他の産地でも、軒並み生産量が減っていますね。 鈴木 有明海沿岸だけでなく、海苔業界全体で深刻なのが、後継者不足です。海苔の収穫シーズンは、大体11月から4月ぐらい。寒い冬に冷たい海水で作業するのは大変な仕事です。海苔作りは機械化が進んでいますが、必要な設備を一式揃えるのに数億円かかる。小規模な海苔屋さんや漁師さんが新規参入するにはハードルが高いですよね。 さらに、クロダイなど海藻を食べる魚の食害に遭ったり、それらを防ぐために新しい網を仕掛けなければならなかったり、手間もかかります。だから気候変動だけでなく、いろんな要素が重なって海苔の生産量が減っているのだと思います。 この傾向が続けば、海苔を使わないコンビニおにぎりは、これからも増えていくでしょうね。
鈴木 昆布は種類によって産地や味、用途もそれぞれ違います。よく食べられているものは利尻昆布、羅臼昆布、真昆布、日高昆布の4種類ぐらいと言われています。
鈴木 例えば京料理の味のベースは利尻昆布、大阪の料理は真昆布が主流、などなど地域によって使われる昆布も変わります。 すべての昆布の生産量の9割以上は、北海道です。全体的に生産量が減っていますが、最近、特に深刻なのが、道南の生産地です。 ── 上図の紫の線が、北海道南部の函館などがある渡島半島エリアの生産量ですね。 鈴木 そうです。渡島半島では真昆布を収穫していますが、水温が上がっている影響や、ウニの食害の影響で、天然の昆布が育たなくなっているようです。 昆布は、収穫したらすぐ出荷できるわけではありません。獲ったら、海岸に並べて乾燥させます。そのあと倉庫で保管して、2年くらい熟成させるんです。さらに、昆布を使う料理人の方々のところに届くまで、さまざまな人を介すため、北海道で昆布の不漁でも、料理人の方々に危機感がなかなか伝わらないという現状があるようです。 ちなみに昆布は養殖もされていますが、養殖のためには天然の種苗が必要なんですね。複数の関係者に聞いたのですが、養殖の昆布から種苗をとってまた養殖する......という完全養殖はまだうまくいっていないようです。天然の昆布が減っているから、種苗が獲れず養殖もいずれできなくなる可能性があります。このあいだ関西で昆布を取り扱っている方に話を聞いたら「もう真昆布は絶滅するかもしれない」とおっしゃっていました。 ── 絶滅......。 鈴木 ただ、業界の人に話を聞くと、料亭で使われる昆布と、コンビニのおにぎりに使われる昆布は、ちょっと違うみたいです。 昆布は厚さや幅によって1等~4等に等級分けされています。さらに1本の昆布のなかでも根元のほうが品質がよいとされているようで、料亭に使われるような昆布は、産地、等級、部位など、細かく指定されて注文があるようです。ひとつの産地で昆布がとれなくなったら、お店の味に大きく影響がでますよね。 一方、コンビニのおにぎりの昆布は、細かくカットして濃い味付けをするので、原料にはそれほどこだわりはありません。長昆布やあつば昆布といった品種も使われますし、料亭用の昆布の形を整える際に出る端材も利用されているようです。 昆布がとれなくなっていることの影響は、まずは料亭に影響があり、コンビニは最後の最後だと思いますが......。それでも、天然の昆布が減っている中、今後はどうなるか分からないですよね。