コンビニのおにぎりが無くなる!? 和食の危機と希望
鈴木 上の図を見てください。2005年には北海道でも水温が保たれていますが、だんだん水温が上がっているのが分かりますか? このままいくと、2095年には、日本とオホーツク海、ベーリング海をつなぐ「はしごが外される」と予測している研究もあります。これは2012年の研究ですが、海水温の上昇は当時の予測を越えるスピードで進んでいるようです。 ── これは......結構ショックです。 鈴木 そうなんですよ。加えて、日本の孵化放流のやりすぎも不漁の要因の一つだという説もあります。 孵化放流とは、河川を堰き止めて遡上してきた鮭をまとめて捕獲し、人工授精によって稚魚を生産して、川に放流するものです。他の魚でも行なわれていますが、鮭が一番大規模なんですね。 ── その孵化放流が、なぜ不漁の原因に? 鈴木 もともと日本人の食卓に鮭の切り身が安く日常的に並ぶようになったのは、「北洋漁業」といって、北太平洋のアラスカあたりまで行って鮭を獲るようになったからです。しかし、1970年代後半に200海里の排他的経済水域が設定されると、日本の船は自由に北洋で操業できなくなりました。そこで、国内での生産に目が向けられるようになったんです。 日本の川はアメリカやロシアに比べて短く、産卵に適した場所がもともと少ないんですよね。だから、稚魚をたくさん作って放流する方法が主流になり、日本の鮭漁業を支えてきました。ちょうど200海里時代に北海道や東北地方での漁獲量が増えていくのですが、それを支えたのが孵化放流です。 ですが、餌を与えられて育った鮭は、いわば温室育ち。川から海に降りたときに、海岸でカモメなどの鳥や大きな魚に食べられてしまうこともあります。また、広い海に出た際に、ロシアやアラスカの海で生まれた野生児たちに負けてしまうようなんです。 一方で、日本の川でも野生魚が産卵していることが少しずつ分かってきて、自然に産卵できる環境を整えようという取り組みが行なわれるようになっています。稚魚を放流するのではなく、発眼卵といって、孵化する直前の卵を河川に放流する取り組みもはじまっています。 ── そうした変化は、いつ頃から起こっているんでしょうか。 鈴木 野生魚が注目されるようになったのはここ10年くらいです。一方で、旧来の孵化放流のやり方は社会に深く根付いているので、なかなか大きく変えるのは難しいという側面もあるようです。教育の一環で、子どもたちが放流をする地域もたくさんあります。 ── すでに歴史のあるやり方に異を唱えるのは、簡単なことではないですよね。 鈴木 そうですね。ただ、孵化放流がいけないということではなく、野生魚の産卵場所も保護しつつ、孵化放流も続けていきましょう、という形で進んでいくのがいいと思います。あとは、鮭がちゃんと住める場所を作る動きが、2095年までに間に合うかどうかというところです。 ところで、最近のコンビニでは200円前後の、ちょっと高級なラインのおにぎりも売っていますよね。そうしたおにぎりでは、鮭フレークではなく、鮭のハラミやハラスを使っています。 ── 鮭が減っているから、そうした商品が出てきたということですか? 鈴木 そうですね。食べ比べてみたんですが、中身も結構違いました。