患者の負担を減らす放射線治療― ガンマナイフの仕組みやメリット・デメリットを知る
脳腫瘍と聞くと、開頭手術を連想する人も多いかもしれない。しかし近年では、開頭することなく脳腫瘍を抑え込むことができる放射線治療が多数行われている。 神奈川県横浜市港北区にある横浜労災病院は1991年(平成3年)の開院時から、放射線治療装置の1つである「ガンマナイフ」を導入していた医療機関だ。その副院長で脳神経外科部長を務める周藤高(しゅうとうたかし)先生に、ガンマナイフ治療の仕組みやメリット・デメリット、適応症例や今後の展望などについて伺った。
◇ガンマナイフ治療の仕組みと、その開発の歴史
ガンマナイフは、ガンマ線と呼ばれる放射線を使った治療装置です。放射線治療の1つですが、病変周囲の放射線量が非常に少なく、まるでナイフで病巣を切り取ったようなピンポイントの治療ができるため、ガンマナイフと呼ばれています。 ガンマナイフは1968年、スウェーデンのカロリンスカ大学の脳神経外科医ラース・レクセル教授によって開発されました。当時は脳手術での死亡率が高かったことから、開頭せずに患部を治療できれば死亡率を引き下げられるのではという発想から、研究が始まりました。 ガンマナイフ治療装置は、約200本のガンマ線のビームを多方向から照射します。1本1本のガンマ線は微弱なので、ガンマ線が通過する部位にはほとんど影響を与えず、ガンマ線が集中した部位のみに強くガンマ線が当たる仕組みになっています。 1968年に初めて制作されたプロトタイプのガンマナイフは、脳腫瘍ではなく三叉神経痛などの機能的疾患の治療装置として設計されました。その効果が認められたことから、脳腫瘍や脳動静脈奇形の治療に使われるようになったのです。その後も改良が続けられ、1987年にアメリカのピッツバーグ大学が改良型のガンマナイフを導入し、多くの治療を行い有効性が広く知られることになり、全世界へと普及しました。 日本では1990年、東京大学が初めてガンマナイフ治療装置を導入し、現在では約50台が日本全国で稼動しています。 ガンマナイフ治療の際には、患部に正確に照射するため頭部を固定しなければなりません。また、患部の位置を座標として数値化する必要があります。 そのため当初は、金属製のフレームで頭部を固定した状態でCTやMRIの画像を撮影し、そのデータに合わせてどのように照射するか治療プランを作成し、多数の照射ポイントを手作業で調整していました。 現在では自動で照射ポイントに位置調整ができるようになり、治療時間も大幅に短縮されています。さらに2015年にはフレームではなくマスクで頭部を固定するタイプも登場し、患者さんの負担が少なくなりました。フレーム固定ではフレームをピンで頭部に固定するため、局所麻酔が必要です。一方マスク固定は、患者さん一人ひとりの顔に合わせたプラスチックマスクを作成して頭部を固定するため、痛みを感じることはありません。ただしマスク固定は、体を動かすと頭部の位置も影響を受けることがあるため、患者さんの病気や病状などによって使い分けられています。 多方向からガンマ線を照射するというガンマナイフの基本コンセプトは、開発当初から変わっていません。しかし、ハードウェア的な進化は上記のように目覚ましいものとなっています。