4階級制覇王者の井岡一翔は本当に「日本人ジャッジ3人」の恩恵を受けてV3に成功したのか?
ロドリゲスは15連勝していて、たたみかけるような連打が武器だが、一発で倒すパンチ力や飛び抜けたスピードはない。だが、こういう相手との一戦こそが、“エアポケット”のような番狂わせを起こすことを井岡は承知していた。 「ボクシング人生と人生には、いろんな流れがあって、こういう試合で負けてもおかしくない雰囲気、タイミングだった。前回にいい試合をして、今回は、カード的に井岡が勝つだろうと皆さんが思っているときに、歴史上(番狂わせが)起きる。試合中も流れが悪いな、こういう時に負けるのかなと頭をよぎった」 その不吉な予感や流れを断ち切る力が井岡にはあった。 6ラウンドから無理をせず距離を取り左を上下に散らしてリズムを取り戻す。「いくのか」「我慢するのか」、戦術の判断が難しい中で、井岡は冷静に試合を組み立てた。 7ラウンドには左右のボディ、右のアッパーが効果的だった。得意のバックステップも機能し始めた。 「気持ちと我慢比べ。相手が中盤に打ち疲れると思っていた。相手が突っ込んでくることは中間距離だけでは止められない。前で潰し、その距離に慣れさせてから、距離とテンポを変えながらロングレンジで戦った。(疲れで)踏み込みも甘くなりパンチも当たり出した」 井岡が「時間を分けてポイントを取りにきていた」と言うように、ラウンドごとに、メリハリをつけたロドリゲスは、9、10ラウンドにショートパンチの連打で反撃を仕掛けてきたが、井岡は耐え抜く。そしてポイントが、どちらに転ぶかを決定づけるチャンピオンズラウンドと呼ばれる11、12ラウンドで井岡が息を吹き返した。 「相手が気持ちで来るならこちらもギアを上げ、最後は倒すつもりでいった」 ロドリゲスの左目上から血が流れた。 ジャッジは3者共に11、12ラウンドは井岡を支持している。 井岡は、判定を待つ間、「要所、要所、ポイントを気にしながら戦わねばならない難しい試合だったが、勝ってはいると思った」という。3者共に同じスコアで3-0判定だとコールされた時点でもう井岡は左手でガッツポーズを作っていた。 「経験と判断で勝った。内容には満足していないが、次の統一戦にはつながった」 試合後、解説が的確だったとSNSで評判になった入江は、こう井岡を評した。 「ロドリゲス・ジュニアさんの攻撃にヒヤっとした場面もあったんですが、終わってみたら井岡さんの顔は綺麗なままで芯に食わないディフェンスがあるんだろうなと思いました。ああいう粗い相手の打ち終わりにもカウンターを入れていました。あれだけ連打をされても、頭が止まることもなかったです。要所、要所の高等テクニックに興奮しちゃいました。入ってくるところにはアッパーを合わせる。めちゃくちゃ怖いですよ」 その卓越した技術を勝利につなげたのは世界戦20戦の豊富なキャリアである。そして、さらに根底にあるのが、強靭なメンタルと、それを支える戦う理由だった。 「経験とプライド。守らないといけない家族もいる。息子が物心つくまでは父親として負けられないし勝ち続けたい」 井岡は、そう語った。