川崎Fの中村憲剛が決めた不惑バースデー弾の舞台裏
そして、いざFC東京戦が始まると、憲剛の脳裏にもゴールを強く求める思いが頭をもたげてきた。言うまでもなく、自らにバースデープレゼントを贈る、という個人的な理由ではない。リーグ戦でもフロンターレを止めてやる、と意気込むFC東京に奪われかけた序盤の流れを引き寄せるために、クロスバーや波多野の美技に阻まれながらも、前半だけで4本のシュートを放っている。 「自分がどんどんシュートを打って、というなかで途中からは完全に狙いにいっていましたからね。悠からのメールがなければ、こんなに貪欲にはならなかった。特別な日にゴールを決められるかどうかは正直、誰にもわからない。そもそもキャリアのなかで初めて自分の誕生日に試合が来て、どのような心構えでいけばいいかがわからないなかで、姿勢みたいなものをずっと出していたことが最終的には転がってきたのかな、と。取る気がなければ点は取れない。悠の気持ちがよくわかりました」 40歳を超えてJ1でゴールを決めた選手は、28年目を迎えたJリーグの歴史で過去に5人しかいない。41歳3ヵ月12日のジーコ(鹿島アントラーズ)を筆頭に、40歳6ヵ月6日の三浦知良(横浜FC)、40歳5ヵ月21日の中山雅史(ジュビロ磐田)、40歳1ヵ月14日の中澤佑二、40歳1ヵ月3日のドゥトラ(ともに横浜F・マリノス)と続く系譜に、40歳ちょうどの憲剛が名前を連ねた。 「神様のジーコさんもいるし、みなさんスーパーレジェンドじゃないですか。そこに名前を刻めるのはごく一部の選手だと思うので、純粋に嬉しい気持ちです。ただ、自分は一人でどうこうできる選手じゃないので。今回も薫がボールを運んでくれなかったらあそこまで走れないし、点を取れてもいない。その意味では、チームのみんなに感謝の思いしかないです」 同じシーズンで10連勝以上を2度マークする、歴史的な独走で2シーズンぶり3度目の優勝へまた一歩近づいた。2位のガンバ大阪との勝ち点差は17ポイント。ガンバが残り9試合を全勝しても勝ち点は78どまりで、現時点で68に伸ばしているフロンターレが4勝を積み上げれば美酒に酔う計算になる。 フィニッシュが見えてきたなかで、J2を戦っていた2003シーズンに中央大学から加入して以来、18シーズンにわたってフロンターレひと筋でプレーしてきたバンディエラは、日々の練習から繰り広げられる競争を勝ち抜き、フロンターレで先発をつかみ取るために全力を注ぐとしっかりと足元を見つめる。 「今日は朝からみんなに40歳おめでとう、大台だねと言われました。30代でもサッカー選手は大台なのに、まさか自分が40歳になって試合に出て、点を決めるとは思ってもいなかった。ただ、年齢は数字だと、自分がどれだけやれるかだと思うので。不惑と言いますけど、惑わずにやっていきたい」 10試合負けなしのガンバ、そして憲剛を中心に隙を見せないフロンターレが勝ち続けると仮定した場合、敵地で21日に行われる大分トリニータ戦で優勝が決まる。そのとき連勝記録は16に伸び、アントラーズが延長戦やPK戦がまだ導入されていた1998シーズンから1999シーズンにかけてマークした、年をまたいだケースも含めたJ1の最長連勝記録にも並ぶことになる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)