川崎Fの中村憲剛が決めた不惑バースデー弾の舞台裏
「今日の試合に関して言えば、前半からけっこうマイナスのところが空いていたので。薫の動きに完全に目を奪われている間にマークを外しておけばパスが来ると思って、スルスルとペナルティーエリアのなかへ入っていって、薫の横について『来い、来い』と念じていました」 三笘へパスをはたいた時点で敵陣の中央付近にいた憲剛は、ゴールの匂いを嗅ぎ取るように縦へ急加速。前方にいた味方を追い抜き、狙いを定めた森重と渡辺の間にまで侵入した。次の瞬間、ゴールライン付近から三笘は身体を捻りながら、左足でマイナス方向へ折り返すパスを送った。 「薫から本当にいいボールが来たし、これだけ近い距離だったら特にコースなどは関係なく、思い切り打てば入るだろう、と。なので、薫のおかげですね」 左足によるワンタッチで至近距離から放たれた一撃は、再三にわたって好守を見せていた波多野の左肩口のあたり、キーパーにとって最も反応しづらいコースを強烈に射抜いた。インサイドハーフとして先発した憲剛は、おそらく後半30分前後には交代を命じられるだろうと予測していた。実際に同32分でベンチへ退いたなかで、直前のタイミングに具現化させたゴールをこう表現している。 「自分でもびっくりしたし、正直、言語化するのがちょっと難しいですね」 FC東京戦を前にして、チーム最多の12ゴールをあげながら左太もも裏に肉離れを起こし、無念の戦線離脱を強いられているFW小林悠から誕生日を祝うメールが届いた。11シーズンにわたって苦楽をともにしてきた、33歳のストライカーとのやり取りは憲剛によれば次のようになる。 「点、取れちゃいますね」 「それはお前のメンタリティーだからだよ。オレは狙ってどうこうじゃないから」 「いや、絶対に取れます」 念ずれば通ず、と表現すればいいだろうか。度重なるけがに苦しめられながらも、フロンターレが悲願の初優勝を果たした2017シーズンには23ゴールで得点王とMVPを獲得。通算118ゴールをあげてJ1歴代9位にランクされる小林の言葉は、不思議な説得力に満ちていた。