親の世話になりたくないーー高齢の両親に介護されるいらだち 難病と闘う落水洋介の葛藤 #病とともに #ザノンフィクション #ydocs
夢は一人暮らしをすること
ディレクターの私が初めて落水さんと会ったのは、2023年2月。ファストフードの店で話をしたあと、落水さんの誘いで居酒屋へ行った。 落水さんは、レモンサワーのグラスを傾けながら一つの夢を語ってくれた。 「親元を離れ、一人暮らしをしてみたいんです」 介助が必要な落水さんにとって、厳密に一人きりでは生活できないものの、親に負担をかけずに生きたいというのだ。それは、親への葛藤の解決としてだけでなく、障害を持っていても自由に生きられる、ということを証明するためでもあるという。 具体化に向け、支援者の協力で自宅近くに一軒家を借り「おっちーハウス」と名付けた。階段に手すりをつけ、電動ベッドを搬入するなど、内装を少しずつバリアフリーに変えていく。 両親は「一人暮らし計画」に夢中になる落水さんを、うれしさ半分、不安半分で応援していた。 落水さんの場合、ヘルパーの支援は、障害保険などで月に120時間程度が認められている。24時間一人暮らしするにはそれでは足りない。落水さんは、ヘルパーを使える時間を増やすための仕組み作りにも奔走した。 そして2022年12月から、週に1回ヘルパーに宿泊してもらってのお試し一人暮らしがスタートした。 初めて実家を離れて外泊した日、落水さんは「小さな一歩です」と笑った。
大らかさが仇となり…大恩人を激怒させてしまう
落水さんには、恩人がいる。 実家の近所で不動産関連の会社を経営している黒谷さんだ。 2016年頃、境遇にふさぎ込む落水さんをブログで知り、落水さんの母校(黒谷さんの息子も当時同じ学校に通っていた)の体育祭へ無理やり連れ出したそうだ。それが契機となってさまざまな縁も生まれ、落水さんは再び人生に前向きになったという。 落水さんは黒谷さんを大恩人と慕い、取材中、たびたび杯を交わす二人の姿があった。 ところが2023年6月、二人の関係に亀裂が生じた。黒谷さんが、落水さんに愛想を尽かし「もう会いたくない」と伝えてきたのだ。 事情を聞けば、PLS社のボランティアスタッフの一人が、酒の席で黒谷さんに暴言を吐いてしまったそうだ。社長としてすぐに謝罪すべきところを、まあ大丈夫だろうと軽く考え後回しにしてしまった。それで関係がこじれてしまったとのことだった。 「自分が営業マンだった頃はこんな失敗はしなかった…」 落水さんは自分のせいだと幼子のように号泣した。その涙は、病気で変わってしまった自分への悔しさでもあった。 けれど、黒谷さんの落水さんへの思いは変わっていない。 2024年1月、二人は行きつけの居酒屋で偶然再会する。黒谷さんは落水さんの謝罪を受け止め、二人はまた元の関係に戻った。 落水さんの周りには、いつだって温かい人たちがいる。