親の世話になりたくないーー高齢の両親に介護されるいらだち 難病と闘う落水洋介の葛藤 #病とともに #ザノンフィクション #ydocs
親への感謝といらだち 難病ゆえの葛藤
落水さんの両親は共に70歳を超えている。落水さんが「家に戻りたい」と伝えると、両親は温かく迎えてくれた。 落水さんのことを両親は献身的に介護した。 朝は主に父・徹夫さんの担当。服を着替えさせ、自家製の野菜ジュースを用意する。車は後部座席に車いすごと乗れるように改造し、落水さんが遠くへ外出する際はドライバーも務める。 一方、日中に訪問介護の仕事を始めた母・仁子さんは、毎日のように飲み歩く落水さんの帰宅を自宅で辛抱強く待つ。酩酊する息子が帰ってくると、玄関先からベッドまで背負って運び、下着も含めて着替えをさせ、顔から足先までを丁寧に拭いて寝かせる。 老いた両親にとっては荷が重いように見えた。 そんな両親に対し、落水さんは冷たい。何か問われても返事はぶっきらぼう。心配をよそに、連日飲み歩く。 落水さんは、病気になる前からお酒が大好きだったという。車いす生活になってからも、毎日のように飲む。近所の飲み屋のほとんどが知り合いで、落水さんのために、トイレに手すりをつける改装をした店もいくつかある。 酒に酔えば、思いがけず乱暴な言葉も出てしまう。 私たちは、必死で介護する仁子さんに「最悪」「死にたい」などの暴言を放つ落水さんも見た。 けれど仁子さんは意に介さない。「私は全然平気。そういう本音を言えるのも家だから」と笑って見せる。母の強さだろうか。
自立を目指して 合同会社「PLS」設立
両親に介護され、やりきれなさを酒で流す日々。けれど、そんな自分を変えたいという意思を持ち続けていたことが、少しずつ状況を好転させた。 きっかけは2016年頃から始めたブログだった。 電動車いすを入手する時に、窓口や方法がわからず苦労したことを機に、自身の体験や福祉の情報を発信し始めたのだ。やがてブログは評判となり、落水さんは講演などにも呼ばれるようになる。 前向きな気持ちが戻ってくると、持ち前の明るさもあって、支援の輪は広がっていった。 そして2018年、落水さんは合同会社PLS(Peace Love Smile)を設立。病気についての情報発信や、福祉の啓蒙活動などを行う会社だ。 社長の落水さん以外のスタッフは、ブログなどで知り合ったボランティア。メンバーは社会人が中心で、皆に共通しているのは落水さんに遠慮をしないこと。運営がおかしければ面と向かって批判もする。落水さんは慣れない社長業に悪戦苦闘しながらも、仲間たちとの時間の中で一つの夢を形にしようと動き出す。