マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も
SFTSウイルスは大陸と日本の間を移動している可能性も
中国でSFTSウイルスが発見されて以降、そのDNA情報の収集と起源を探る研究が進められています。我が国においても、2013年に初の発症例が報告されてからすぐに、国立感染症研究所を中心に、ウイルスのDNA分析が行われてきました。これまでの調査結果によれば、大陸で検出されたウイルスと日本で検出されたウイルスの間にはDNA情報に差があり、日本のSFTSはもともと日本に古くから存在していたものと推定されていました。 しかし、2018年に中国の研究者グループが科学誌「Scientific Reports」に発表した論文によると、アジア各地より検出されたSFTSウイルスDNAの分子系統解析の結果、日本および韓国で検出されたSFTSウイルスのDNA系統は中国国内においても認められており、大陸と日本の系統は二分されるものではなく、むしろウイルスは長距離を移動・分散していると考えられ、ウイルスを保有するマダニの運び屋として、渡り鳥の可能性も示唆されています。 中国国内においてもSFTSの発症例の確認は2009年と比較的新しいことから、このウイルスの起源や、人間社会への進出年代、移動・分散のルートについては、さらに調査を進めていく必要があり、同時に日本、中国および韓国など、アジア全体での研究の連携および情報の共有が感染症管理の観点から重要になるものと思われます。
身近に迫るマダニの脅威
実はSFTSに限らず、ダニ媒介性の感染症リスクは身近に迫っているとされます。「日本紅斑熱」というSFTSとは別のマダニ媒介性ウイルス感染症は、日本では以前から知られている病気でしたが、1994年まで年間10~20名程度だった症例数は、1995年以降増加傾向にあり、その発生エリア(県)も拡大しているとされ、やはり、マダニが私たちの身近なところまでその生息域を拡大していることを強く示唆しています。 この分布拡大をもたらしている究極要因として、農山村放棄によるシカ・イノシシなどの野生鳥獣の増加、人間生活圏への進入、そしてアライグマなどの外来動物の分布拡大・都市適応など、我々人間の社会と野生生物の世界との間の境界および均衡(バランス)が崩壊していることが挙げられます。さらにイヌやネコといった愛玩動物までもがマダニ感染症リスクのキー生物となろうとしています。 野生鳥獣管理および愛玩動物管理は今後、人間および野生動物の健康な社会を保全するためにも重要な課題となります。