マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も
特定外来生物アライグマによるSFTSの拡大リスク
山口大学・森林総合研究所の共同研究チームによって、和歌山県内で捕獲されたアライグマのSFTSウイルス抗体保有率を調査した結果、2007年には捕獲個体28匹中わずか1匹しか保有個体が認められなかったのに対して、2008年以降、抗体保有率は年々上昇して、2015年には捕獲個体の50%以上に抗体陽性反応が認められたのです。 さらに抗体保有個体の分布を調べた結果、海岸線に沿った平野部の市街地エリアで抗体保有個体が広がっていることが確認されました。このことは、外来種であるアライグマが新たなるマダニおよびSFTSウイルスの運び屋となっており、我々の身近なところまでこの感染症を持ち込むリスクが急速に高まっていることを意味します。 アライグマはすでに日本全国に分布を拡大しており、特に関東や関西の人口密集エリアでの増加が問題となっています。アライグマ集団におけるマダニ寄生率が今後全国規模で拡大していけば、東京や大阪などの大都市でもSFTSの患者が増加する可能性も無視できなくなります。
ペット動物がSFTSを媒介!?
そして、SFTS感染リスクをもっとも深刻にする要因がペット動物になります。国立感染症研究所の調査によれば、西日本を中心に各地の飼育犬でSFTSV抗体保有個体が確認されており、さらに山口県の飼育犬における疫学調査研究では、136頭の検体中5頭(3.7%)にSFTSV抗体保有が確認され、さらに別の2頭(1.5%)の血液からはSFTSウイルス遺伝子が検出されました。しかもこれらの検体はいずれも全く症状が出ておらず、健康状態には問題がありませんでした。このことは、イヌの体内でウイルスが存在し続けていたことを意味しており、感染したイヌと濃厚接触をすることで、イヌから人へSFTSが感染するリスクを強く示唆するものでした。 このイヌから人への感染が起これば、SFTSウイルスは従来のダニ媒介性感染症とは決定的にリスクのレベルが異なる病原体となります。つまり「ダニという動物に噛まれない限り感染しない」病気ではなく、「感染した動物からも感染し得る」病気、すなわちSFTSは「人獣共通感染症」という、狂犬病などと同じカテゴリーに属する危険な感染症となるのです。 そして、実際にその恐れは2017年に一気に現実味を帯びることとなりました。同年10月に厚生労働省が、徳島県において病気で弱った飼い犬を介護していた40代男性の飼い主がSFTSを発症したとして調べた結果、イヌからもSFTSウイルスが検出され、状況からみてイヌから人に粘膜を介してSFTSが感染したものと判断される、との報道発表を行いました。幸いにして、このイヌと飼い主はその後回復したとのことでしたが、このニュースは関係者の間に大きな衝撃をもたらしました。「イヌも人間と同様にSFTSを発症する」=「ウイルスがイヌ体内でブーストするリスク」および「イヌから人へ感染するリスク」が示唆されたのです。 イヌでの感染実態については中国においても同様の調査結果が示されていましたが、興味深いことに、ネコに対する調査では、一切、抗体保有個体が検出されなかったということで、ネコはもともとマダニには噛まれにくい動物なのではないかという推測もされていました。 ところが、この推測もまた2017年に覆されました。同年6月に山口県においてSFTSを発症したネコが確認され、「ネコも人と同様にSFTSに感染して発症する」ことが明らかになりました。そして同年7月に、厚生労働省から、野良猫にかまれた50代の女性がSFTSを発症し10日後に死亡していた、と発表されたことで「SFTSはネコからも人に感染し得る」ことも明らかになりました。また同じ年の8月には、広島県安佐動物公園で飼育されていたチーター2匹が相次いでSFTSで死亡したことが報告され、ネコ科動物がSFTSウイルスに対して高感受性であることが強く示唆されました。 さらに昨年2018年8月には宮崎県において、SFTSに感染したネコを診察した獣医師および看護師がSFTSに感染した事例が報告され、飼育動物を介したSFTS感染リスクの現実性は決定的なものとなりました。