宇宙飛行士・野口聡一さんが帰国会見(全文3完)オールJAXA、オールジャパンの勝利
作業に苦労したときに焦りはなかったのか
林:船外活動のときのことをまだ整理してらっしゃるっていうことなんですけども、可能な範囲で、光が当たっても返ってこない、光でしか自分の存在を確認できないって前もおっしゃってたと思うんですけども、そのときどんな、なんて言うのかな、恐怖だったのか恐れだったのか戸惑いだったのか、そのときの感覚をお聞きしたいのと、その船外活動のときは結構作業に苦労なさってたと思うんですけれども、そういうときに焦りはなかったのかとか、あともう1人、パートナーの方、手袋がちょっと損傷したとかもあったと思うんですが、その船外活動全体についてのご自分の感情とか、それをどうやってコントロールなさっていったのか、そういったことをぜひお聞きしたいです。 野口:ありがとうございます。そうですね、もう本当におっしゃるとおりで、思い返してみると7時間ぐらいの作業でしたけども、いろんなストーリーがあったなと。今言われて思い出しましたけども、一緒に出た相棒の宇宙飛行士が手袋に傷ができてしまったと。もしかしたらそこから空気漏れがあるんじゃないかっていうので作業を一部変更してね、事なきを得たというか無事に戻ってきたんですけども。 そういう意味で国際宇宙ステーションももう23年運用していますので、私が最初に船外活動やったときにはスペースシャトルだったので、ほぼほぼ新品、新品というか地上で完全に整備されたものを自分で持って上がって、それを着て作業して帰ってきてたので、宇宙服の状態はもう完璧なんですよ。そういう意味じゃF1みたいな感じですよね。完璧に仕上げたマシンで走ると。
宇宙ごみが衝突した跡がいっぱい
今は基本的に宇宙服は宇宙ステーションにある意味、置きっぱなしのものをわれわれ自身が整備しながら使っていく。本当に想定を超える長い期間、宇宙に置きっぱなしなので、ラリーカーっていうんですかね、何かあったら自分たちで修理しながら走んなきゃいけないと。よく持っていると思いますけども、どうしてもいろんな形で不具合っていうのが出てきてしまうと思います。 もう1つは怖さという意味では宇宙ステーション、外を移動してると手すりとか外壁にもういっぱい穴が開いてるんですよね。いわゆる宇宙ごみが衝突した跡がいっぱいあって、これも15年前とは比較にならないぐらい、そういう宇宙ごみが実際に衝突してできた跡っていうのがあります。それがもし自分の体に当たれば、もう一瞬にして自分の体を貫通して大変な被害になってしまうわけですけども。幸いに私がいる間にはそういうのはなかったですけど。 ただ、それだけ表面に貫通した跡があるっていうことは、それだけ金属がめくれ上がってる部分が多いので、おそらくそこで気が付かないうちにそういうところを触ってしまったんじゃないかと。傷っていうのはね。ですから、そういう意味ではさっき言った無重力とか真空の世界とか宇宙放射線っていうことに加えて、宇宙デブリ、直接当たる怖さもありますけども、当たった跡の金属のめくれ上がりによる宇宙服への被害っていうのも本当にばかにならないぐらい起きていると。だからそれは本当にまざまざと感じましたね。 ですから、で、あとは先ほど申し上げましたけども、そもそも宇宙ステーションが造られたときには、設計されたときには想定されていない新しい太陽電池パネル取り付けると。もともと取り付けるはずではなかったボルトを取り付けにいっているので、うまくはまらないとか規定のトルクではちゃんと収まらないっていうことがどうしても出てくるわけですよね。実はわれわれのときにもまさにそれがあり、先日、星出さんたちのクルーの船外活動でも似たような、想定していない不具合っていうのが出て。 そうなるともうともかく宇宙船の外に出ている2人でなんとかするしかないと、そういう場面が徐々に増えているなという気はします。そういう意味では宇宙ステーション、これからも長く使っていきたいと思いますけども、想定を超えて、そもそも10年といわれて国際宇宙ステーション始まっているので、もう20年以上やって完全に耐用年数を超えたところで、当初は考えていなかった不具合っていうのが増えてきているなという気はしますね。正直な感想として。 林:ありがとうございます。