中国はこうして日本の“半導体技術”を狙っている! ターゲットにされる理由は「危機感のなさ」
危機感のない日本政府
米下院中国特別委員会に属する共和党のジョン・ムーレナー議員と民主党のラジャ・クリシュナムルティ議員は、去る10月15日付の書簡で山田重夫駐米大使に半導体製造装置の対中輸出規制の強化を求めた。 日本とオランダは、米国が求める半導体技術の対中輸出規制強化に難色を示しているが、先の大統領選では対中強硬姿勢を標榜するトランプ前大統領の政権復帰が決まった。対中規制の要請は、バイデン政権よりも強化されると見込まれる。 進む規制強化の中、中国が調達を急ぐ様子も報じられている。日本を代表するメーカー・ニコンの徳成旨亮社長は「i線」と呼ばれる旧世代の光源技術を使うレガシー半導体向け露光装置について、「中国からの需要が非常に強い」と述べており、かの国での販売拡大を企図しているとされる。が、米国はレガシー半導体の規制も検討中だ。ニコンは、中国向け露光装置の販売拡大が極めて高いリスクを負うことを理解するべきだろう。 また米国は、中国の研究開発に対しても危機感を強めており、先の国防七校など17の大学や研究機関をエンティティ・リスト(ブラックリスト)に掲載している。 当時のトランプ政権は米国に滞在する一部の中国人留学生や研究者のビザを停止したことがあったが、対象とされたのは国防七校や兵工七子に関係する人物たちだった。米政権に人民解放軍の影響下にあると判断されたのは、2020年だけで1000人を超える。 この方針はバイデン政権に代わってからも引き継がれ、米国はおよそ500人の中国人理工系大学院生へのビザ発給を拒否した。英国やEUでも、中国人留学生への留学ビザ発給は厳格化されている。一方トランプ前大統領の復活で対中規制が厳格化される見通しにもかかわらず、日本政府は「国防七校の留学生というだけでは規制できない」との立場だ。 技術進歩のスピードと中国における半導体自給の必要性の高まりを考慮すれば、半導体分野における中国の人材不足ジレンマは重大な問題であり続けるだろう。中国は今後、さらに苛烈に日本の学術界を狙ってくるということだ。 繰り返すが、中国の大学から留学生を受け入れることは、日本由来の機微技術が軍事転用されることを意味し、国家安全保障問題と直結する。先進7カ国で、スパイ防止法がないのは日本だけだ。が、いまだに日本政府からは、この問題に対する危機感は伝わらない。日本の学術界から懸念国への半導体関連技術の流出防止対策は喫緊の課題だ。 平井宏治(ひらいこうじ) 経済安全保障アナリスト。1958年神奈川県生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。外資系投資銀行、M&A仲介会社などを経て2016年に独立。日本戦略研究フォーラム政策提言委員のほか、日本李登輝友の会の理事を務める。著書に『経済安全保障リスク』『トヨタが中国に接収される日』ほか多数。 「週刊新潮」2024年11月28日号 掲載
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