中国はこうして日本の“半導体技術”を狙っている! ターゲットにされる理由は「危機感のなさ」
“お得意の手法”で
ただ、いかに急ピッチで進めようとも、半導体関連の技術の確立と専門家の養成には時間がかかる。そこで彼らは、お得意の手法で技術と人材の確保に乗り出した。西側諸国から盗み取るのである。そのターゲットの一つが、日本の大学や研究機関なのだ。 では、それらの入手を狙う政府の意を受けた中国の大学と、日本の大学や研究機関との関係はどんな状況にあるのか。文科省が公表している資料をまとめたものからはとくに東北大学と提携している大学が多いことが分かる。 理由は明らかで、中国は狙いを定めた技術を持つ大学と提携し、そこに多数の留学生や研究者を送り込むからだ。中国では国家情報法が施行されており、先にも述べた「軍民融合政策」が取られている中国の大学と提携することは、軍民融合政策のもとで国家情報法に定められた法的義務を課せられた中国人留学生や研究者に日本由来の半導体技術を開示させることを意味する。国家情報法の第7条にはこうある。 〈いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助及び協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人及び組織を保護する〉 この法的義務を負う中国人留学生や研究者が、日本の学術界から半導体技術を盗み出して軍事に転用する、あるいは日本の半導体産業の競争力を落とすことは当然の責務なのだ。
日本には技術の“残滓”が
1980年代から90年代にかけて世界需要の5割を占めた、メイド・イン・ジャパンの半導体は、いまでは見る影もないのが現状だ。2度の日米半導体協定や日本政府と半導体メーカーの先見性の欠如により、いま日本企業が生産できる半導体の最も微細な回路線幅は22ナノメートルが関の山である。 1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1という小ささで、最新のスマートフォンやAI機器に使用される半導体の線幅はわずか9ナノメートル。その6割は台湾で生産されており、残念ながら日本は技術的に“13年遅れ”という状態にある。半導体の組み立てでも、最先端を走る台湾のTSMCより、日本企業は9世代も遅れている。 人材面でも日本は早急な対応が必須で、日本の半導体関連企業は2000年以降のおよそ20年間で4割近く減っている。昨年5月、電子情報技術産業協会(JEITA)は、キオクシアなど国内主要8社だけでも、今後10年間で少なくとも4万人もの人材不足となる見通しを明らかにした。 ここまで聞けば、日本の半導体産業には中国が盗もうと考える技術などないとの印象を持つことだろう。だが、日本は完全に白旗を揚げているわけではない。いまも、日本にはかつて世界をリードした半導体技術の残滓がある。それどころか、残滓と言うにはあまりに優れたものが大学や研究機関に存在するのである。 近年、進められている半導体産業政策の見直しにより、日本の大学では半導体研究が盛んだ。すでに文科省は「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」に取り組んでおり、2031年度までを事業期間として、東京大学、東京科学大学、東北大学が中心となって次世代を担う人材の育成に携わっている。 東大では新たな半導体の開発期間とコストを10分の1に減らす半導体自動設計のプラットフォームの研究が始まっている。同大の黒田忠広教授は「半導体の民主化がイノベーションを加速する」として、人材を10倍に増やすことを目標に掲げている。 東京科学大学では広島大学や豊橋技術科学大学などと連携しながら、電気自動車や、メタバース(仮想空間)の次世代技術として注目を集めるAR(拡張現実)という新規市場を念頭に、環境への負荷が少ない半導体の研究と開発を行っている。 日本における半導体研究の中心地ともいえる東北大は昨年9月に、政府が大学の研究力を高めることを企図して創設した10兆円規模のファンドの支援対象候補となっている。同大からはこれまでに多くの優れた半導体研究者が輩出しており、中でも18年から総長を務める工学博士の大野英男教授は省エネの次世代半導体につながる「スピントロニクス技術」をはじめ、新型の省電力半導体の開発を進めている。 TSMCが進出した熊本県では、大学と地域が一丸となった半導体教育と研究開発に取り組んでいる。今年度から、熊本大学はデータサイエンスをベースにした学部「情報融合学環」と、人材の育成に特化した「工学部半導体デバイス工学課程」を新設した。 大学だけではない。日本の企業は、半導体の製造装置の分野で世界をリードしている。日本の半導体製造装置は世界シェアのおよそ3割を、材料面では5割を占めている。台湾のTSMCが世界で流通する先端半導体の9割のシェアを握っているといわれるが、その製造装置は日本企業の半導体製造機に大きく依存している。 半導体製造装置で先端半導体を製造するには極めて高度で特殊な技術が必要だ。日本の東京エレクトロンとオランダのASML、そしてアメリカのラム・リサーチとアプライド・マテリアルズ、KLAは世界五大半導体装置企業といわれる。 米国は中国の先端半導体国産化を阻止するため、半導体製造装置の規制を強化している。製造装置の一部である露光装置は、ASML、キヤノン、ニコンの3社が世界市場を押さえる。米国は日米蘭連携の観点から、23年11月に露光装置(ArF液浸装置)などの輸出や技術移転に関する規制を強化した。さらに、出荷済みの露光装置の保守・整備を請け負わないよう同盟国に要請している。