松田直樹の命日に松本山雅が劇的逆転勝利、継承される魂と反町監督の後悔
選手たちだけでなくファンやサポーターも入れ替わってきた間に、日本サッカー界を悲しみのどん底に突き落とした松田さんとの突然の別れも、少しずつながら忘れられてきた。 たとえばジェフ戦で同点ゴールを決め、今月中旬に開幕するアジア競技大会に挑むU-21代表にも選出されている東京五輪世代の注目株、20歳のFW前田大然も「正直、僕は全然知らないんです」と打ち明ける。 「(松田さんが)日本代表に入っていたことも知らないんですけど、でもあの人が来たから松本山雅が知られたと思うので。それを受け継ぐというか、僕たちがJ1へ昇格させて(松本山雅の)名前をさらに知ってもらえたらと思います」 決して悪気があるわけではない。1997年生まれの前田はおそらく、松田さんが最終ラインの一角を担った日本代表が史上初の決勝トーナメント進出を果たし、日本中を熱狂させた2002年のワールドカップ日韓共催大会を知らない。世代交代が進むなかでは仕方のないことであり、だからこそ「一緒にプレーした選手たちが伝えていかなきゃいけない」と田中は力を込める。 「マツさんがどのようなプレーヤーだったのか、ということも知らない若手が多い。ただ、言葉で伝えるのは難しいですよ。オレたちのころとは時代が違っているから。それでもピッチの上で彼らに響くように、練習からプレーで示していくしかない。何も感じない選手もいるかもしれないけど、オレはずっとやり続けるし、少しでも感じ取ってもらうようにしていくだけです」 42試合を戦う長丁場のJ2戦線も、次節で3分の2を終える。2位のFC町田ゼルビアに勝ち点4ポイント、3位の東京ヴェルディには8ポイント差をつけて首位に立つ松本山雅も、いよいよ胸突き八丁の戦いを迎える。ジェフ戦の後半アディショナルタイムから出場し、3‐2と追い上げてきた相手の猛攻を食い止める一躍を担った田中は「J1へ戻るだけじゃ意味がない」と昇格した先を見すえる。 「J1でマリノスに勝つことを、マツさんは望んでいると思うので。この場にいれば『まだまだ。もっと上を目指せ』と言うはずですから」 J1を戦った2015シーズンの対マリノスは1分け1敗だった。夜空のどこかで見ているはずの松田さんへ捧げた、初めて命日にもぎ取った白星も通過点。故人が放ち続けた負けん気の強さと球際における激しさをさらに増幅させながら、松本山雅は豊穣の秋の先に待つ2度目のJ1昇格へ向けて加速していく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)