知名度ゼロからの大逆転――断酒から5年、地獄を見た地下芸人がつかんだ「チャンス」
地獄から天国のはずが、一気に地獄の底へ
離婚から1年半を経て、知人の紹介で千原兄弟の兄・せいじがオーナーの居酒屋で働き始めた。NSC同期のチャンスを、せいじはよく覚えていた。せいじにも「お前の酒の飲み方は頭がいかれている」とよくあきれられた。 2017年、千原兄弟のトークイベント「チハラトーク」に出演する。前述の山へ埋められた話に、千原兄弟は腹を抱え床に倒れるくらい笑った。 「あんなにうけたことなかったですよ。その後、ジュニアさんの計らいでテレビ番組(『人志松本のすべらない話』)が決まって文字通り跳び上がりました」 人気番組に出たことでお茶の間の視聴者にチャンス大城という名は広く刻まれた。 だが、収録後の打ち上げで、またも失敗を犯す。 「憧れのダウンタウン・松本さんをはじめ、大先輩たちとご一緒するのがうれしくて、たくさん酒を飲んでしまってね。失礼を繰り返したんです」 翌朝、目覚めた瞬間、「あ、やらかしたな」と思った。 「とにかくあちこちから怒られました。番組はジュニアさんがつないでくれたわけだから、恩人の顔にも泥を塗ったんです」
その数日後に出た、「チハラトーク」のライブ。前回の大爆笑とは打って変わり、千原兄弟に最後までステージ上で叱られた。愛ゆえの強烈なムチだったが、現場はお通夜みたいな空気になっていたという。 ライブの帰り道のことをいまだに覚えている。 「自分に踏まれている地面にも申し訳なくなったんです。芸人だったら誰もが憧れる『すべらない話』に出て、その4日前には『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』でも優勝して。僕のようなクソみたいな芸人にとってこんな輝かしい一週間はないじゃないですか。それが一気にドーン!と真っ逆さまに落ちたんです」 もう芸人を辞めよう。感謝してもしきれない千原兄弟に「お世話になりました」と言おう。だが、電話をかけた恩人の口から出たのは、「来月、『にけつッ!!』(読売テレビ)に出てくれへんか」という言葉だった。 「もう涙が止まらなかったです。ジュニアさん、せいじさんはこんな俺にまだチャンスくれるんかと思って。チャンス大城という芸名なのでちょっとややこしいんですけど」 その瞬間、あの日の息子の泣き顔が浮かんだ。酒で多くの人を傷つけ、失ってきた。 「その時に、もう二度と飲まんとこって誓ったんです。死ぬまで飲まないぞと。2018年の1月24日でした」