ウクライナ戦争に考える 現代の領土拡張は得か損か?
小国の経済効率
僕はかつて、現代のように国際関係が濃密な時代には、領土大国よりも、経済力と技術力の高い領土小国の方が有利ではないか、という趣旨の「都市型国家論」を、ある月刊誌に連載したことがある。当時は、米ソ両超大国の力が下落ぎみで、日本をはじめ、韓国、台湾、シンガポール、タイなど、比較的領土の小さい東アジア、東南アジアの国々の経済成長が著しかったのだ。大国はその長大な国境を守り、広大な領土を保全するために多くの力をさかなければならないが、逆に、戦後しばらくの日本(アメリカが基地経費負担を求めなかった時代)や、シンガポールのような一都市だけの極小国家には、そのコストがないことが大きなメリットとなっていると考えたのだ。 実際、現在でも一人当たりGDP上位の国は、ルクセンブルグ、アイルランド、スイス、ノルウェー、シンガポールがベストファイブであり、明らかに小国が多い。 産業が高度化し国際化した状態においては、平和が保たれ、自由貿易が維持されているかぎり、領土が小さい国の方が経済効率が高く、国民は豊かな生活を送ることができるのではないか。そう考えると、現代の国家運営において、やみくもに領土拡張を目指すのは得策ではないように思える。
紛争はマイナスサムゲーム
「ゲームの理論」において、誰かが得をすればその分誰かが損をするという、参加者の利益と損失の総和がゼロになるゲームをゼロサムゲームという。 狩猟採集時代、農業遊牧時代には、領地がそのまま生産量(富)の大きさにつながるので、組織(国)はその拡張に向かう。それが所有者のいない未開地であれば、それは開拓であり、猟場や農地や遊牧地が増えるのでプラスである。しかしその拡張が他の組織(国)の領地を奪う場合には、奪った方の領地が増えた分だけ奪われた方のそれが減るので、ゼロサムである。その上、紛争をともなう拡張には犠牲がともなうので、かなりのマイナスサムになる。逆に、組織(国)どうしの交易や分業が生じれば、プラスサムになるので、総合的にはその方が明らかに得策である。 しかしある組織(国)の力が群を抜いて強大である場合、あるいはその指導者がきわめて好戦的である場合、全体としてはマイナスサムであることがわかっていても、紛争をともなう領土拡張に向かう可能性が高い。