「彼らは島の宝なんです」――プロ野球界のレジェンド・村田兆治が、離島甲子園で球児たちに伝えたいこと
実は、今回の大会準決勝まで進出した「奄美市選抜」のエースは、大野稼頭央投手の実弟、純之介くんだった。「センバツ出場投手の弟」は大会の目玉となり、対戦相手はもとより、他チームの選手たちも大野純之介くんの熱投を見つめていた。長い手足を駆使した豪快な投球フォームを多くの子どもたちが真似をしていたほど。打っては95mの左翼フェンス直撃の3ベースヒット。球場全体が大いに沸いた瞬間だった。
「人を喜ばせて、次のステップに向かってほしい」
島をあげての歓迎。これも「離島甲子園」の風物詩だ。 佐渡市内の4つの球場を回りながら、その都度子どもたちに声をかけ続けていた村田。投球フォームを直接指導することもあれば、打席での構えを説くこともあった。それよりも重きを置いていたのは「子どもたちの夢」だった。
村田はこの大会に出た選手全員に「作文」の提出を課している。原稿用紙3枚、1200字を書かせ、「一人でも未提出が出たチームは翌年の出場権を剥奪する」と、閉会式で念を押す徹底ぶりだ。 子どもたちには「作文、何書くんだ?」と都度聞いてまわる。「将来はお笑い芸人になりたい」と答えた子どもには「やってみろ」とネタを促し、ひとしきり笑った後、「まだまだ島レベルだな。全国に通用するかな?」といたずらっぽく笑う。そして「誰か、島の市長になるとか言うやつはいないのか?」などとハッパをかけることも忘れない。 「彼らは島の住民の宝なんですよ。野球でもなんでもいいけど、彼らの夢や活躍する姿が島の人を喜ばせる。島を元気にするのはお前たちなんだ、と常に言っています。野球教室ではキャッチボールの基本のきを、しつこく教えるけど、それも島のためだ」
実際、この大会の最後には「キャッチボールクラシック」というもう一つの大会がプログラムに組み込まれている。9人1チームが5人と4人の二手に分かれ、7m離れて向かい合う。投げ手が入れ替わりながら、2分間で何回ラリーをできたかを競う、日本プロ野球選手会が考案した競技だ。速さと正確さ、何よりチームワークがなければ成り立たない。 村田は競技の前、子どもたちの前でこう強調した。 「しっかり基本を学んで島に帰ってください。島で自分の弟や年下の子から『お兄ちゃん野球教えて』と言われたとき、ボールはどう握るのか、ステップはどうするのか、今日学んだことを今度は、自分がコーチとなって、小さな子たちに教えてほしい」 村田が離島の球児に求めているのは「人の上に立つ人材になる」ことだ。