「変人扱いされる」元世界王者・辰吉丈一郎52歳、波瀾万丈のボクシング人生
「好きなことをとことんやったら、変人扱いされる。いつからそんな世の中になったんかな」。度重なる眼疾や敗北を乗り越え、三たび世界バンタム級王座に就いた辰吉丈一郎(52)。1990年代を疾風のごとく駆け抜けた「浪速のジョー」は、最愛の父の享年と同い年になった今もボクサーの肩書を捨てようとしない。やんちゃの限りを尽くした少年時代、ボクサーとしての栄光と挫折、その傍らに常にあった家族の存在。現役にこだわり続けるカリスマが自らのボクシング人生を語りつくす。(文中敬称略/撮影:山口裕朗/Yahoo!ニュース オリジナル RED Chair編集部)
井上尚弥と辰吉丈一郎をつなぐWBCのベルト
「単純にすごい、強い。それしか言いようがない」 この人らしい飾り気のない言葉だった。今をときめくスーパースター、井上尚弥について語ったときである。インタビューの約1週間前、元5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)をわずか2ラウンドで沈め、日本ボクシング界初の3団体統一王者になっていた。井上がドネアから奪取した緑色に輝くWBCバンタム級ベルト。四半世紀前、そのベルトを腰に巻いていたのは辰吉だった。 「ベルトは家にありますよ。ときどき見たり、昔を思い出したりするかって? そんな過ぎたことはもうどうでもええ」 これまた愛想のない言葉でさっさと片付けてしまう。ところで、浪速のジョーと現代のモンスターが時空を超えて対戦したらどんな試合になるだろう。辰吉の全盛期を知るボクシングファンなら誰もが「夢の対決」を空想してしまうほど、辰吉丈一郎は強くて、華があって、魅力的なボクサーだった。 ちょうど25年前の11月22日、大阪城ホール。世界戦で3連敗中だった辰吉は、当時全勝の王者シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)を7回TKOで下して王座に返り咲いた。圧倒的不利の下馬評を覆した勝利に、多くのファンの涙声と絶叫が交錯した。そこに広がっていたのは、令和の時代には想像もできない光景だった。