【イマドキの大学ゼミ】改ざん文書を見つける犯罪捜査や、がん治療にも レーザー光で「分子」の世界を解明
超高精度の顕微鏡でも見ることができない小さな「分子」。青山学院大学理工学部の鈴木正教授のレーザー光化学研究室は、レーザー光の力を使って目に見えない分子の世界を読み解き、犯罪捜査やがん治療などさまざまな分野へ応用するための研究に取り組んでいます。 【写真】昔のイメージとは大違い? 女子高生に人気の意外な大学
■研究室データ
青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 レーザー光化学研究室(鈴木正教授・柏原航助教) 研究分野:分子構造、化学反応ダイナミクス 研究室生:学部9人(男4人:女5人) 博士前期課程6人(男5人:女1人) (2024年7月時点)
警視庁と共同研究で犯罪捜査に
分子は、レーザー光を当てると光のエネルギーを吸収し、エネルギーが高い「励起(れいき)状態」へと変化します。励起状態になった分子は、ふつうは光を放出して、違う分子になろうとしたり、元の状態に戻ろうとしたりするなど、さまざまな化学反応を起こします。鈴木教授のレーザー光化学研究室では、こうした分子の変化を分析し、分子の構造がどう変わるのか、どのような化学反応を起こすのかを研究しています。分子の研究は、世の中でどのような役に立つのでしょうか。 レーザー光化学研究室では主には励起状態の分子の性質を調べる基礎研究に力を入れていますが、そこから派生する多様なテーマも取り扱っています。例えば、警視庁科学捜査研究所(科捜研)と共同で行った、文書改ざんを見つける新たな手法の開発もその一つです。インクに光を当てたときに励起状態になった分子が発するわずかな音(衝撃波)を検出し、とらえた音の違いからインクの違いを読み取って文字の改ざんを見破ることに成功しました。 細胞のDNAを構成する核酸塩基の研究にも力を入れています。核酸塩基の分子構造を少しだけ変えると、光を当てたときにがん細胞を死滅させる機能を持てるようになり、がんの治療薬への応用が期待されています。
教授を「さん」づけ
理工学部では、4年の4月から研究室に所属し、1年間かけて卒業研究に取り組みます。レーザー光化学研究室は、化学・生命科学科の学生が選択することができ、2024年度は9人の学部生と、6人の大学院生(修士課程)が所属しています。学生たちは鈴木教授を「鈴木さん」、柏原助教を「柏原さん」と呼び、研究者として対等な立場でお互いの意見を出し合いながら研究を進めています。 4年の矢島菜緒さんは、高校時代から化学が好きで、理工学部のある広々とした相模原キャンパスで、化学の専門性を深めることができる青山学院大学に進学しました。 「化学・生命科学科では3年の終わりまでに物理化学、無機化学、有機化学、生命科学の4分野を基礎知識として学びます。幅広い知識を身につけた上で、専門的なテーマを深めていくことができるカリキュラムに魅力を感じました」(矢島さん) 興味のあるテーマを扱っている研究室はいくつかありましたが、その中からレーザー光化学研究室を選ぶ決め手になったのは、3年次に研究室を訪問したときの鈴木教授の言葉でした。 「鈴木さんは『テキストに書いてあることがすべて正しいとは限らない。さらに追究し、テキストをより完璧にしていくのがうちの研究室の方針』と話してくれました。まだわかっていないことはたくさんあるんだ、自分もテキストを完成させていく一員になりたい、と思いました」