北陸新幹線「米原1兆円 vs 小浜5兆円」 そろそろ東京側の二重系も視野に入れた「フェアな議論」が求められるワケ
小浜ルート5兆円、米原1兆円
北陸新幹線のルート選定を巡る論争で、小浜ルート推進派がよく挙げる意見のひとつが、「完全別線でなければリダンダンシー(代替機能)が効かず意味がない」「米原ルートだと東海道新幹線が止まれば一緒に止まってしまう」というものだ。 【画像】「えぇぇぇ!?」 これが60年前の「米原駅」です! 画像で見る(16枚) 一方、米原ルート推進派からは、 「米原~新大阪間の完全複々線化」 「米原から新大阪まで(何らかの)別ルートでつなげるべきだ」 といった意見が出ている。どちらの主張も、東海道新幹線に影響を与えないよう、新大阪までの完全別線を求めている。 しかし、小浜ルートは5兆円もかかるのに対し、米原ルートは1兆円で米原まで作れる。しかし、米原から新大阪まで完全別線にするとなると、費用が過大になり、本末転倒になってしまう。 ・中京圏の利用者 ・京都の水問題 を考慮すれば、それでも米原ルートの方がましだ。 とはいえ、筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)は小浜・米原の両方の推進派に対して疑問を感じている。完全別ルートが必要なら、小浜ルートより先に整備すべき区間があるはずなのに、なぜ誰もその点に触れないのだろうか。 つまり、東京側は米原ルートで東海道新幹線に乗り入れるのと同じ状況なのに、その部分の二重系化についてはまったく議論がないという点だ。 実は、国鉄が新幹線を設計する際、大宮~都内間を二重系にすることを前提にしていたことがわかった。そのため、今回は当時の資料を基に、大宮から 「都内第2のターミナル」 までの別線構想を前編で紹介し、後編では今から作るとしたらどんなルートになるか、整備した場合の効果について考えていきたい。
逼迫しつつある東京駅
北陸新幹線の東京側では、高崎~大宮間が上越新幹線と、大宮~東京間が東北新幹線と共用している。そのため、東京駅では最短3分45秒間隔で列車が発着している。東京駅には4線しかないため、車内清掃が間に合わない列車は、いったん上野駅の空いているホームに移動させて整備し、その後東京駅に戻している(実際、上野駅の下りホームから東京駅に向かう回送列車も見られる)。 こうして線路や駅の容量がすでに逼迫しているが、北海道新幹線の札幌開業を迎えると、東北新幹線の本数をさらに増やさなければならない。現在、東京~札幌間の航空便は毎時2~3本が発着しており、函館便も加わることになる。 仮に東北新幹線10両編成1本が航空機2機分の輸送力を持つとした場合、東京~北海道間のはやぶさ号は、定期列車だけでも現在の毎時1本から2~3本に増やさなければならない。それでも、上越・北陸新幹線の現行本数であれば、定期列車は東京駅にねじ込めるが、臨時列車は大半が大宮で折り返すことになるだろう。 また、定期列車をすべて東京にねじ込むとしても、米原から東海道新幹線に乗り入れるのと同じように、東北新幹線が停止すれば影響を受ける点は変わらない。さらに、東京駅は新大阪駅とは異なり、その先に列車を逃がす構造になっていないため、全列車が折り返さなければならず、米原ルートを通るよりも運行のハードルが高いといえる。もし小浜ルートを推進したいのであれば、まずは大宮~都内のどこかの駅間に新たな新幹線を設けるべきだろう。 建設費が高いという理由で逃げることはできない。恐らく、小浜ルートと米原ルートの差額である 「3.5兆円」 の方がはるかに高いはずだ。それを承知で小浜ルートを推進しているのであれば、東京側の二重系が整っていない点を改善せず、リダンダンシー効果がないという理由で米原ルートを否定するのはフェアではない。