[特集/フリック・バルサ徹底分析 01]これがポスト・メッシ時代の回答! 17戦55得点を生み出す超攻撃的スタイル
中央のオーバーロードはEURO2024のドイツ代表も行っていた。ハフェルツ、ギュンドアン、ヴィルツ、ムシアラの4人を中央へ集めた。だが、バルセロナの方がより効果的である。伝統的に狭い局面のパスワークに優れていることが1つ。ただ、ドイツ代表もそこに大きな差はない。決定的なのはヤマルの存在だ。ドイツ代表はSBを上げることで幅をとったが、ヤマルのような1対1の優位性がなかった。バルセロナは伝統の狭小スペースのテクニックと、やはり伝統のウイングの優位性を組み合わせた。この2つが相乗効果を持っているのがポイントである。 第二トップ下として、ハフィーニャが覚醒している。右ウイングのときよりも生き生きとしていて、裏への飛び出し、ラストパス、フィニッシュで新境地を拓いた。ペドリ、ダニ・オルモ、フェルミン・ロペス、ガビの攻撃的MFの能力も活かされている。そして右サイドでスペースを得たヤマルはもちろん、サポートして追い越していくクンデも攻撃力を伸ばした。 相手を不安定にさせる中央集結からの裏への攻略、空いたサイドからの突破。この二面攻撃によりレヴァンドフスキにはよりチャンスが増え、チームとしても12試合40ゴールの破壊的な攻撃が出来上がった。
異様なハイラインと徹底したハイプレス
守備の特徴は異様なほどのハイラインだ。1980年代の後半に出現したACミランによるゾーナル・プレッシングによく似ている。どちらもオフサイドの山を築いている。 ただ、ミランは初期のハイラインをその後に修正した。ハイラインは苛烈なプレッシングとセットなので疲弊しやすく、高すぎるラインもリスクが高かったからだ。 フリック監督が初期ミランのようなハイラインに踏み切った背景には、機械判定の導入があるのではないかと推測する。従来はオンサイドとされていたものが正しくオフサイドと判定される。逆もまたありうるわけだが、精密化された判定は守備側にメリットがあると考えているのではないか。 ただ、それよりも攻撃とリンクしていることに注目すべきだろう。もともとバルセロナはハイプレス志向でラインも高い。ボール保持で優勢という前提があるからで、クライフやレシャックがよく言っていたように「敵陣でボールを失ったときに100メートル戻る必要はない。そこで守ればいい」という考え方である。それを尖鋭化したのがグアルディオラ監督時代だった。 メッシがいたらこれはできない。グアルディオラ監督時代の初期はメッシもプレッシングを忠実に行っていたが、ある時期から全く守らなくなった。バルセロナが必要以上にボールを保持しなければならなくなった要因ともいえる。押し込みきってしまえばハイプレスはより容易になる。メッシは最初のプレスだけをすればよく、二度追いする必要はない。ただしそれには圧倒的なボール保持が条件だった。 メッシ不在のバルセロナを受け持ったフリック監督にとって、無駄に保持することに全く意義を見いだせなかっただろう。遅く攻めてもメッシがいれば意味がある。しかし、いないのであれば、速く攻められるのなら時間をかける必要はないわけだ。 ゴールを直撃すべく中央オーバーロードを採用した。そしてこれは守備にリンクしている。多人数が集結した場所でボールを失っても、そこに多くの選手がいるのだから即座にプレッシングができる。切り替えの速さは今季の特徴で、そのためにラインを高く保てる。相手は圧縮された中央部を突破するのは困難。バルセロナは早期のボール回収が可能になる。 相手が余裕を持ってビルドアップする状況では、レヴァンドフスキが相手のピボーテをマークする。ボールをサイドへ吐かせて、全体をボールサイドにスライドしつつ押し上げる。このレヴァンドフスキのタスクもメッシには要求できなかった。 フリック監督は即時奪回という伝統を踏襲し、それを実現するためにカンテラ出身の若手を数多く登用。カンテラーノが軸となるのはバルセロナの理念ではあるが、実現したのは久々だった。