横浜市長の権力と魅力 なぜ多彩な顔触れが立候補するのか
吸い寄せられる人材 教員・職員・議員、そしてトップ
市民からすると、政令市に住む魅力は一般市と異なるブランド力が高い点にあろう。また、政令市で働く教師や職員についても、府県と比較して優位性を認めている様相にある。 例えば学生が小中学校の教員になろうとする場合、通常は県の採用試験を受けるが、政令市がある地域で都市部に勤務したい若者たちは県ではなく政令市の採用試験を志望することが多い。教員の採用権限が県から政令市に移っている結果だ。同じように、一般の地方公務員も、大都市区域の都市計画などに魅力を感じる学生は県庁より政令市を志望する。 二元代表制として市長と並び自治体経営に関わる市議会の議員の場合はどうだろうか。 全国の20政令市にはそれぞれ議会があり相当数の議員がいる。横浜市86人、川崎市60人、相模原市49人、合わせて195人の政令市議であり、彼ら彼女らが神奈川県の主要部分の意思決定を担っている。一方で神奈川県議はその3市域から63人が選出され、県議会の61%の議席を占めている。 通常、市議は市政課題と、県議は県政課題と向き合うことで役割は異なっているが、県業務の大半が市に移っている政令市の場合、県行政は空洞化しており、一体県議はどんな権限と仕事をしているのだろうか。仮に横浜市域から神奈川県議に選ばれても地元の問題にはあまり関わる機会がない。横浜問題について実力を発揮するには横浜市議になる方がよい。 誤解を恐れずにいうと、県議より市議に優秀な人材が集まる傾向にある。菅義偉氏は横浜市議を2期経験し衆院議員になっているが、彼はなぜ神奈川県議を選ばなかったのだろうか。しかも伝統的に横浜市議は執行機関の職員人事にまで関与する傾向があるともいう。 日本では「国→県→市町村」という3層構造の中、上意下達のような指揮命令系統が存在する。中央集権的な中央・地方関係の中で、市でありながら県の指揮命令下に入らず、主務大臣の監督下にあるという政令市長は知事と同格ないし知事より上の権力者と言えなくもない。とりわけ横浜市のような巨大な政令市になると、その傾向が強い。神奈川県政は「足柄行政」とも言われる。足柄下郡箱根町など周辺の農山村に関わる一般市町村を束ねる役割がメインとなる神奈川県庁と異なり、横浜市は県全体の中心に位置し税源や雇用機会を豊富に持つ。ブランド力と経済力を併せ持つ政令市として横浜市は大きな力を持つ。 都知事選とは違う意味で注目される“横浜市長選”。上記のような要素が重なった結果、知事より横浜市長の方が政治家にとって魅力あるポストと見えるのではないか。今回の市長選で、いろいろな著名人が立候補している背景にはこうした理由が深く関わっているように見える。