都市に共存する生き物の視点を取り入れた真の創造力とは? 社会に問題提起し続ける「チンポム」のエリイさんと林靖高さんが昆虫研究者・牧田習さんと語る“生態系、街、アートの行方”「渋谷半世紀」~若者の聖地の今~
エリイ「自分が人間として、一社会の代表として生きているという自覚がある。都市に生きる一人間として経験したことを心や魂で感じ、それを作品に落とし込んでいる。個人というよりは媒介していくという感じ」 現場に飛び込み、問題を提示する印象も強い。 エリイ「6人いるのが大きいのかな。そこで社会が形成され、話し合いが行われる。自分が知らなかった情報を他のメンバーが持ってくる。1人の力が6倍になり、新たな視点、目が12個生まれて、というのはある」「メンバーは卯城が集めた。小学校のクラス分けみたいに決められた。性格も違うし、仲がとてもいいわけでもないが、いつの間にか一緒になっていた。アート作品を作る時は、人の助けが必要な場合も多い。全く違う考えのメンバーたちがいることによって、新たな価値観や視点、気づきを得て作品が完成していく」 林「僕らの場合はバンドみたいなグループに近いのかもしれない。毎日仲良く一緒に飲んでいるような関係ではないが、共通の作りたい音楽がありそこを目指して集まっているというのはある」
エリイ「だからといってボーカルだけが目立つバンドではない。この音いいよね、でも自分だけでは出せないよねっていうのがあって、分担しながら一緒につくっている。(その瞬間は)人生の中でメンバーたちが命と命をタッチし合っているようなイメージがある」 ▽都市の「奈落」 結成から17年たった22年には、森美術館(東京・六本木)で活動を振り返る大規模な個展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」を開催する存在にまでなった。林さんは「偉くなったような実感はマジでない。ずっと怒られているし」と苦笑。エリイさんも「特に生きやすくなったわけでもない」と言う。 チンポムの国内最新プロジェクトは23年秋に新宿・歌舞伎町の王城ビルで展開した「ナラッキー」だ。連日、若者らが行列をなし評判となった。歌舞伎町の地名が歌舞伎座誘致を果たせなかった歴史に由来することに注目。歌舞伎俳優の尾上右近(おのえ・うこん)さん、多くのアーティストらと協力し、約30年間も閉ざされてきた4フロア分の吹き抜けに作品「奈落」を設置、そこから都市の裏側に潜むものが見えてくる。奈落は「地獄」「どん底」を意味する一方で、舞台の床下も指す。「物事には陰陽がある。表舞台も奈落があるから成り立つ」と作品発表時の記者会見でエリイさんは語っていた。