都市に共存する生き物の視点を取り入れた真の創造力とは? 社会に問題提起し続ける「チンポム」のエリイさんと林靖高さんが昆虫研究者・牧田習さんと語る“生態系、街、アートの行方”「渋谷半世紀」~若者の聖地の今~
原爆の惨禍から再生する人間の生命を表した巨大壁画「明日の神話」の右下部分。岡本さんが描いた黒いきのこ雲につながるように縦80センチ、横2メートルの板に爆発した四つの建屋を描き、立てかけた。その作品「LEVEL7 feat.『明日の神話』」は警察に撤去されたが、チンポムは当時「原発事故が再び起きないよう警鐘を鳴らすために行った」とコメントしている。 その動機を林さんは「壁画は1968~69年、岡本さんがメキシコのホテルのために制作した。45年の広島と長崎の原爆、54年の第五福竜丸事件の水爆さく裂の瞬間がモチーフとなっており日本の被爆のクロニクルとも言える」と説明。「福島の原発事故が起きた時、東京の渋谷のど真ん中にあの壁画があること自体に意味があると思い、原発事故を記録するために絵を付け加えた」。世間では作品の改変ではないかと論争も起きたが、岡本さん側からクレームはなかった。 渋谷から福島へ。チンポムは現場に向かう。「震災後に福島へ行くとカラスが増えていたので、東京でやったのと同じ試みを行った」と林さん。帰還困難区域で増殖したカラスたちを区域外まで導き出して再制作した「BLACK OF DEATH 2013」だ。映像には、封鎖が解かれながら無人の街となった福島の元避難区域、岡本さんの代表作「太陽の塔」の背面(黒い太陽)や渋谷の風景も収めた。 ▽社会を体現する
チンポムの代表作の一つ「ビルバーガー」(2016年)は、解体される新宿のビルの廃棄物をハンバーガーのように重ねた巨大彫刻作品。そのビルの2階から4階の床を四角く切り取り、廃棄される事務用品などを挟み込んで重ねることで、都市のスクラップ・アンド・ビルドを可視化。ファストフード的大量生産・大量消費への批判も込めた。「20年の東京五輪に向けた街の再開発に対する素朴な疑問だった」とメンバーの卯城竜太(うしろ・りゅうた)さんが当時発言している。 こうして社会のシリアスな状況や不穏な匂いを直感し、アートとして分かりやすく伝える力がチンポムの人気の理由かもしれない。とっつきにくい現代アートのイメージも大きく変えてきた。 林「グループでやっているので、個人的な表現というより、ある程度社会的なトピックスがテーマになってくる。それを表現するからには社会との関係性をつくることになるので、(鑑賞者の)皆さんにとっても身近なテーマになり共感されるのかな、と思う」