都市に共存する生き物の視点を取り入れた真の創造力とは? 社会に問題提起し続ける「チンポム」のエリイさんと林靖高さんが昆虫研究者・牧田習さんと語る“生態系、街、アートの行方”「渋谷半世紀」~若者の聖地の今~
エリイ「ハチ公の後ろの花壇に巣があってネズミが顔を出したりしていて、かわいかったよね。目に見える所に土や巣はどんどんなくなっていったけれど、ネズミたちは生息地を移しただけ」 牧田「都市も含めて地球すべてが自然という考え方もできる。多くの人が公園や雑木林を見て自然を感じると思うが、実際は人が木を植え手を加えた場所。自然の象徴と思われるカブトムシも二次林という人間が作りこんだ雑木林で主に生きている。だから山奥の原生林などにはほとんど生息していない。それも生態系と言えるのでは?」 ▽東京のカラス 「スーパーラット」と並び有名な初期チンポムの映像作品「BLACK OF DEATH」(07年)は、カラスが仲間を呼び集める声をスピーカーで流し、カラスの剥製を見せながら車やバイクで誘導。たくさんのカラスを国会議事堂前や渋谷の繁華街に集結させた。石原慎太郎東京都知事(当時)の指示で都心のカラス駆除が進んだ時期に撮影され、人間が出すごみの栄養で生きる鳥の存在を、都市の生態系として映し出した。
「今の東京ではあれほどのカラスは集まらない。7~8分の1ぐらいの数になってしまったと聞く。16年に新宿の歌舞伎町で開催された『また明日も観てくれるかな?』展で、明け方にカラスを集めるパフォーマンスを行ったが昔のようには集まらなかった」と林さん。エリイさんは「私が子どもの時のように電線の上におびたたしいほどの数のカラスがとまっていることはない。しかし渋谷の公園や自分の家にはやってくる身近な存在だ。人間である一都知事が思っていたほど、簡単に減らせるようなそんなに弱い存在ではない。私はカラスを賢いと思うし、信じている」。 ▽「明日の神話」と原発、放射能 2011年の東日本大震災後の原発と放射能を巡る作品の制作活動により、チンポムは広く知られるようになった。渋谷駅構内で同年5月、原爆をテーマにした岡本太郎さんの壁画の余白部分に、崩壊した福島第1原発の原子炉建屋の絵を付け足した“事件”が、物議を醸したことを記憶する人は多いだろう。