都市に共存する生き物の視点を取り入れた真の創造力とは? 社会に問題提起し続ける「チンポム」のエリイさんと林靖高さんが昆虫研究者・牧田習さんと語る“生態系、街、アートの行方”「渋谷半世紀」~若者の聖地の今~
「日本で最も急進的」と呼ばれる6人組のアーティストコレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group」(以下、チンポム)。2005年の結成以来、映像作品を織り交ぜたインスタレーションやゲリラアクション、路上でのデモなど数々のアート作品を通して社会の問題を提示してきた。見る者の意表を突き、どんよりした時代の空気に風穴をあけるアートワークは時に論議をまきおこす。都市にすむ生物をテーマにした作品でも知られている。メンバーのエリイさんと林靖高(はやし・やすたか)さんが、東京大大学院の農学生命科学研究科博士課程に在籍しながら昆虫研究者として活躍する牧田習(まきた・しゅう)さんと共に「アート、都市、生物」の関係性を巡り渋谷の街で意見を交わした。(共同通信=内田朋子) 「私がミニスカートをはいても、ニューストピックにならない世の中になってほしい」
▽スーパーラット 殺鼠剤(さっそざい)の毒への耐性を遺伝し、都市圏で爆発的に増えていったネズミを通称「スーパーラット」と呼ぶ。チンポムは2006年、渋谷に巣くうネズミを網で捕獲し、その剥製を黄色く着色。作品「スーパーラット」として捕獲映像と共に展示し、都市の生態を明るみに出した。 作品誕生のきっかけを林さんは「渋谷にはよく来ていた。6人が集まって街で作品を作ろうとなった時、身近にいたのがネズミやカラス。店からごみが出る夜の時間帯、クラブ通いの後に始発で家に帰る僕のような若者たちにとっては身近な生き物だった」と話す。「昼間に(駅前の)花壇で待ち合わせしている人たちを見ると、その真裏にネズミの巣穴がたくさんあるのに『よくあそこに座れるな』と。そんな人たちの身近にも実はいっぱいいる、生物をモチーフにした」 エリイさんも「渋谷のセンター街でよく路上に座りながらメンバーで会議をしていた時に何匹も横切っていった。飲食店でバイトをしていても避けられない存在だった」と言う。
林さんは「センター街のネズミがスーパーラットと呼ばれる由来は、毒餌も栄養にして育ってしまうところ。人間が毒をまけば駆除できる、そんな単純な存在ではない。毒も餌にしてたくましく生きる姿に共感して作品にした」とも話した。 ▽アートと環境 都市の中で自らを進化させ、人間と共存し続けるスーパーラットは今もチンポム自身の肖像だ。近年、生態系とアートの関係はますます注目されている。 牧田「エコロジーや環境問題というのはテーマが大きすぎて一般の人が理解するのは難しい。僕は虫を起点にそうした問題を考えるが、アーティストは難解なテーマを分かりやすく説明できると思う。最近の言葉を借りれば『サイエンスコミュニケーション』の能力を持っているのでは」 林「街の中における自然の定義ってそもそも何だろうかと思う。かつてネズミの巣があった渋谷ハチ公前の花壇には自然があったといえるし、虫も生息しない新しいビル屋上のきれいな花壇をエコロジカルと呼べるのかは疑問がある」