【時速194キロ死亡事故】初心者なのに「加速時の圧迫感に感動」と法廷で語った被告の元少年、なぜ親は放任した
■ 加害者は免許所得から1年足らずの「初心者」 第5回公判当日、すでに事故から3年9カ月が経過し、当時19歳だった被告は23歳になっていました。スーツに身を包み、法廷で弁護人の横にうつむき加減で座るその姿からは、ごく普通の大人しそうな青年という印象を受けました。今も両親のもとで暮らしているという彼は、この日、証人として出廷した両親の尋問をじっと聞いていました。 制限時速の3倍以上という高速度で死亡事故を起こし、裁判員裁判で被告人として裁かれている我が息子。この日、証言台に立った両親と傍聴席との間には大きなパーテーションが立てられ、その姿や表情をうかがい知ることはできませんでしたが、父親は、 「免許を取って1年足らずの息子には、高性能の外車はまだ早いかなと思いましたが、どうしてもこれが欲しいというので購入を許してしまったことは間違いでした。責任の一端は私たちにもあると思っています」 と後悔の思いを述べ、 「息子の、酷い、許すことのできない高速運転で、小柳さまの命を奪うことになり、この悲惨な事故について深く反省し、お詫び申し上げます」 と遺族に謝罪していました。
今回の事故を引き起こしたのはあくまでも被告本人です。連日、新聞やテレビで本件が大きく報道される中、両親もまた、未成年の息子の罪の重さに自責の念を感じ、追い詰められていたことでしょう。 しかし、免許を取得してから事故を起こすまでの約11か月間、親として、家族として、彼の心にブレーキをかけさせるチャンスはあったのではないか……。午後から行われた被告への尋問を聞きながら、私は疑問を抱かざるを得ませんでした。 ■ 瞬く間に2台目の高級スポーツカーに乗り換え 子どもの頃から車が好きでスポーツカーに乗りたかったという被告は、2020年3月に免許を取得後、まもなく、父親から就職祝いとして100万円をもらい、そのお金でマツダのRX8(2005年型/6速ミッション)を購入しました。ロータリーエンジンを搭載したこの車は、発売当時「21世紀のロータリースポーツ」として注目を集めたスポーツカーで、1万回転まで刻まれたタコメーターを装備。いまも根強い人気を誇っています。 この車を「かっこいい」と感じて入手した被告は、毎日のように運転し、一般道で時速170~180キロ前後の速度を出すという違反行為を何度も繰り返していたといいます。国産車は時速180キロのリミッターが搭載されているため、それ以上出すことはできなかったのでしょう。 ところがこの車は、購入後まもなく、エンジンが止まるというトラブルをたびたび起こし、そのうち保証期間も過ぎたことから、被告は別の中古車の購入を検討します。それが今回事故を起こしたBMW235i。直列6気筒DOHCターボ搭載、最大出力は326ps(240kW)/5800rpm、限定のスポーツクーペでした。 価格は中古で340万円。当時、給料の手取りが13万円だった被告は、2020年12月、会社で7年ローンを組み、この車を購入。毎月3万円、ボーナス時に7万円を返済していく予定だったと言います。 BMWはドイツ車なので日本車のようなリミッターはなく、アクセルを踏めば時速200キロ以上は軽々と出すことができます。被告は法廷で、「何キロ出るか試したかった」と言い、高速道路では時速200~210キロ超の速度を複数回出して走行していたと述べていました。また、一般道でもほかの車がいない時を見計らって、高速走行を何十回も繰り返し、時には信号無視をしたこともあると語りました。