「近い関係でも、やっぱり距離感が大事なんです」――水谷豊の語る「相棒論」、家族、そして自分
実際に、神様は見ていたのだろう。 趣里は朝ドラのヒロインに抜擢され、次期の放送が控えている。 とても楽しみ、と優しい父の顔を見せ、目尻を下げた。 「何度か挑戦して、『これが最後だと思う』と受けたオーディションだったみたい。笠置シヅ子さんがモデルということで、芝居と歌と踊りと、全部やるんですね、しかも大阪弁。ずいぶん奮闘しているようですよ」 俳優の先輩として、演技のアドバイスをすることもあるのだろうか。 「もちろん娘から相談に来れば、のることもあります。でも僕から口出ししたことはないですよね。まあ、僕からどうだってことはなくてね。ただ、彼女の作品を見ると……うん、オッケーですね(笑)」 これまでの人生で大ピンチはあったかと尋ねると、またにっこり笑った。 「過ぎたことって、大変じゃないんですよ。僕の人生なんて、何もドラマチックじゃない気がする。今月『自伝』という本を出しましたけど、苦労話は何もなくて、笑い話ならあるよって。だから知りたいですね、皆さんがこの『自伝』を読んで、面白いと思うのかどうか。僕では判断できない。自分のことって、本当にわからないですね。でもその分飽きないでいられる、新鮮な自分と出会えるのかもしれません。ただ、『なぜ自分は生まれきたのか』がわかるといいな、と思うようにはなりました。死ぬ前に、ちょっとはわかりたいなと思ってるんです。自分ってなんだろう、と」
『自伝』では、生涯映画監督を続けたいとも語っている。 「うん、それも、目標というか、楽しみの一つですね。最近は、ちょっと長い休みができたら何しようかなってあれこれ考えることが一番楽しい。ずっと休みがない状態が続いていましたのでね。旅行とかね。これから先は、だから本当に、自分はさて、何に向かっていたんだろうということを知りたいというか…」 一つだけわかったことがある。 水谷豊は、俳優、監督である前に、哲学者なのだ。 --- 水谷豊(みずたに・ゆたか) 1952年7月14日生まれ、北海道生まれ、東京育ち。俳優、映画監督、歌手。1964年、劇団ひまわりに入団。1968年から放送のTVドラマ『バンパイヤ』で初主演。以降、『傷だらけの天使』『熱中時代』など、数々のドラマに出演。2001年からスタートした『相棒』シリーズは21シーズンを重ね、代表作に。歌手としては79年『熱中時代・刑事編』主題歌の「カリフォルニア・コネクション」が大ヒット。『轢き逃げ 最高の最悪な日』『太陽とボレロ』など、映画監督としても知られる。今月、誕生日前日に『水谷豊 自伝』(新潮社)が発売される(松田美智子と共著)。 本記事はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」、「#昭和98年」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。