国民投票法改正案とは 成立したらすぐ改憲につながる? 坂東太郎のよく分かる時事用語
憲法改正の手続きを定める「国民投票法」改正案の審議が国会で行われています。5月11日に衆議院を通過した後、論戦の舞台は参議院の憲法審査会に移り、改正案は6月16日までの今国会でどうやら成立する見込みです。2018年から継続審議を重ねてきた同法案の経緯を振り返ってみました。
改憲手続きを定める国民投票法とは?
なぜ国民投票法改正の議論が出ているのでしょうか。まず憲法改正の大まかな流れを見てみましょう。 憲法改正は国会が発議します。発議とは、議員らが議案を提出して審議を求めることで、憲法改正案については衆参両院それぞれ総議員の3分の2以上の賛成で発議できると日本国憲法(96条)は定めています。ただ、発議された後の改憲案を国民がどう「承認」するかについては「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」(同)と定めるだけでした。そこで2007(平成19)年5月、第1次安倍晋三政権の時代に、憲法改正までの手続きを定めた国民投票法(日本国憲法の改正手続に関する法律)が国会で可決・成立したのです。 成立までの議論でいくつかの「宿題」が残されました。しかし、解決されないまま3年後の2010年に施行。そんな中、2014年に法改正が行われました。 課題の1つは、投票年齢を「18歳以上」とした点。当時は選挙権や成人年齢が20歳であったため齟齬(そご)を生みかねませんでした。この点は公職選挙法の改正で「18歳選挙権」が2016年6月に施行され、さらに2018年に民法が改正されて「18歳成人」が2022年4月に施行される予定で、解消への道筋がつけられています。 2つ目は、公務員や教職者が地位を利用した運動を禁止された点です。一人の国民として改憲案に賛成・反対の意見表明をすることはできますが、どんな場合が公務員らの「地位利用」にあたるか必ずしも明確ではないとの指摘や、罰則規定がないために有名無実化するとの声もあります。 3つ目が、憲法改正以外の対象への拡大です。2014年の法改正で結論は出ず、憲法改正の国民投票については「その意義及び必要性について、更に検討を加え、必要な措置を講ずる」(改正法付則)としたところで止まっています。 最後が国民投票の成立要件。法律では「投票総数の過半数」(賛成投票と反対投票の総数)と定めました。これに対して「最低投票率を設けよ」などの意見が根強く残っています。もっともそうすると、ボイコット運動などで民意が歪められる恐れもあって……甲論乙駁(こうろんおつばく)。 ただ、国会でいま審議している今回の改正案は、こうしたテーマに正面から向き合ったものではありません。投票環境の整備が主な目的で、例えば航海中の船員らのための「洋上投票」の対象を実習中の学生らにも拡大したり、駅構内やショッピングセンターなどの商業施設に「共通投票所」を設けたり、期日前投票の投票時間を弾力的に設定できるようにしたりする内容です。本来、与野党で大げんかするテーマでもなく、実際そこが争点になってもいません。安倍前首相による改憲への意欲を野党が警戒して2018年から継続審議となっていたのです。