国民投票法改正案とは 成立したらすぐ改憲につながる? 坂東太郎のよく分かる時事用語
国民投票はどのような手順で行われる?
そこで、仮に賛成側が野党議員を切り崩して「3分の2」を確保したとしましょう。採決強行に次ぐ強行で憲法改正の国会発議がなされたとして、次はどうなるでしょうか。 発議の後は国民投票の運動期間に突入します。国民投票の投票日は改憲発議から60日~180日以内に設定されることになっていて、最短なら発議後60日(約2か月)で国民投票が行われます。前述の通り、投票総数の過半数が賛成すれば憲法改正が国民の承認を得たことになります。これを受け、総理大臣は公布の手続きに入り、憲法96条の規定によると、天皇は国民の名で直ちに公布します。ちなみに「直ちに」を国会法66条で準用すると30日以内(約1か月)です。 最後に、施行(効力を持つ日)はいつかです。公布から何日という決まりはありませんが、日本国憲法そのものが6か月(憲法100条)でしたから、準用すると半年後となります。 現実には「採決強行に次ぐ強行」が非現実的だといえます。安倍政権は2016年の参院選でいわゆる「改憲勢力」で3分の2を確保し、「安倍1強」と呼ばれたほどの求心力を持ちながら憲法改正には持ち込めませんでした。まして現在は参議院で「3分の2」の勢力を持ちません。「強行に次ぐ強行」などしたら、賛成に転じる気のある野党議員もためらうでしょう。何より、国民に疑念を抱かせます。発議された改憲案の内容には賛成でも、国会での議論の進め方に違和感を持つ人も出てくるでしょう。 重要なのは、国会での勢力と国民投票の行方が必ずしもシンクロしないだろうという点です。通常の国政選挙と違い、「人」ではなく「政策」の選択になるので、衆議院の小選挙区で複数の人物から1人を選ぶのと、現憲法の条文と改正案を比較して「イエス」か「ノー」かの二択を選ぶのとではまるで違います。 改正内容に賛成であるがゆえに発議には慎重になる国会議員もいましょう。例えば自民党がまとめた条文イメージ素案では、9条の2項に「自衛隊を保持する」と明記します。それがそのまま国会発議され、国民投票で反対多数となったら自衛隊は立つ瀬がありません。安倍氏が言う「自衛隊は憲法違反に終止符を」が逆の意味で現実化してしまいます。
---------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など