『ミシュランガイド』掲載3店、手掛ける店すべてに行列ができる異端の職人のラーメン哲学
水原に転機が訪れたのは15年。『らぁめん小池』が『ミシュランガイド』のビブグルマンに掲載されたのだ。続いて18年にオープンした本郷三丁目の2号店『中華蕎麦にし乃』、20年には王子の3号店『キング製麺』が掲載されるなど、手掛ける店を次々とミシュラン店にしてきた。
実は料理は苦手
水原の手がけるラーメンは店ごとにコンセプトが異なる。例えば『中華蕎麦にし乃』なら清涼感あふれる日本山椒(さんしょう)を用いた「山椒そば」、『つけめん金龍』なら冷やした昆布だしに自家製麺を漬け込んだ「鰹昆布水つけめん」など、それぞれに個性が光る。創業店が当たれば、コンセプトを変えずに同じメニューで2号店を出すのが一般的だが、水原は店を出すたび、まったく違うコンセプトをゼロから作り上げる。そしてその掛け合わせが次なる味わいを生み出すのだ。 「やりたいこと、試してみたいことがたくさんあるんです。いろいろなラーメンを作っているので料理が得意だって思われますが、実は全然できないんですよ」 水原はそう言って笑う。 「ラーメンって、料理とは違って『自分でも作れる』という感覚なんです。一つのものを作り続けるのが、得意なのかもしれません。限定メニューが得意な人って飽きっぽい性分もあってか、みんな『同じものをずっと作れない』って言うんです。私は逆に同じものをいかにノーミスで作るかっていうところに楽しさを見い出せるタイプです。同じものを作ると言っても、状況は常に変わります。同じ食材でも日によって違いがあったり、チャーシューも大きさが変われば脂の入り具合が違ったりする。お客さんだって毎回違う。ラーメンを作る上で同じ状況はないと実感しています」
手がけるブランドを次々と『ミシュランガイド』掲載店としてきた水原だが、意外にもミシュランを意識したことはないという。 「ミシュランが好む基準に合わせにいくことはできません。いわゆるラーメン専門誌とは性質が違うんです。意識して寄せているわけではなく、作ったものがたまたま相性が良かっただけです」