仕事ができないのを環境のせいにする人への対処法
実は雰囲気を壊していたのは当人だった
他の人たちとその相談者では、職場の雰囲気のとらえ方がまるで違ってる、っていうことですね。 「ええ。それで、いったいどういうことなんだろうって思って、特に信頼できる人物を2人選んで、職場の雰囲気が悪くてやる気になれないという相談があったのだが何か心当たりはないかと、個別に尋ねてみたんです。すると、2人とも、『それってAさんのことじゃないですか?』って言うんです。 職場の雰囲気に対する不満を持っていそうなのはAさんだと、だれもが思うような、何かがある、っていうことですかね。 「ええ。それで、どういうことなのか説明を求めると、Aさんは仕事の覚えが悪く、それに加えて不注意によるミスが多いため、しょっちゅう注意しないといけない、特にチューターのBさんがAさんを熱心に指導してるけど、Aさんがあからさまにうるさがってる様子を見せることがある、って言うんです」 そうすると、Aさんが仕事の覚えが悪い上に不注意なため、しょっちゅう注意される、それがAさんにとっては見張られていていちいちうるさいことを言われるっていう感じで、職場の雰囲気が悪いと思ってしまう、っていうことですか。 「そのようです。それに加えて、仕事上のミスを注意されたとき、他の人は『すみません。これから気をつけます』っていう感じで素直な反応なのに、Aさんは不満げな表情でふてくされた態度を取るらしいんです。それで注意した側もイラッとくることがあり、実際雰囲気が悪くなることもあるようなんです。結局、Aさんのコミュニケーション力に問題があるように思えてきました」 そうですか。伺っていると、職場の雰囲気自体の問題というよりも、相談者であるAさんとチューターのBさんをはじめとする周囲の人たちとのコミュニケーションの問題という感じではないか、と。 「私にはそうとしか思えないんですけど、どうなんでしょうか?」 そうですね。コミュニケーションがうまくいっていないのは事実のようですね。でも、その背後に、Aさんが自分自身の問題を自覚していない、つまりメタ認知が働いていないということがあるように思います。 「メタ認知が働いていない?」 ●メタ認知を鍛えるにはどうするか メタ認知という言葉はあまり聞いたことがないだろうが、自分自身の認知活動についての認知(自分がどのように認知活動をしているかを振り返ること)がメタ認知である。勉強や仕事などで頭を使うのは、まさに認知活動である。仕事に関して言えば、仕事をするという自分の認知活動を振り返り、その現状をモニターすることにより、問題点を把握するのがメタ認知の働きと言える。 例えば、自分の仕事のやり方や成果に関して、ちゃんとできているか、成果を上げているか、だれかに負担をかけていないか、どこかでつまずいていないか、よく分かっていないことはないか、どんな点でミスを犯しやすいか、もっとできるようになるために改善すべき点はどこか、などと振り返ってチェックするのがメタ認知である。 メタ認知が適切に働いていれば、自分の仕事のやり方のどこはうまくいっているが、どこに問題があり、どのように改善する必要があるかが分かるため、そこを改善するための対処行動を取ることができる。それによって仕事力が向上していく。 そこで、ここで改めて、職場の雰囲気が悪いからやる気になれないというAさんの訴えがはらむ問題点について、メタ認知を絡めて、次のように解説およびアドバイスを行った。 一般に、コミュニケーションのトラブルは、一方的にどちらかに問題があるというより、相互作用の問題であることが多い。今回のケースでは、もしかしたら職場の雰囲気、特にAさんを取り巻く職場の雰囲気が悪くなっているのは事実であるかもしれない。しかし、その雰囲気の悪さをもたらす要因として、Aさんのミスの多さや注意されたときの態度があるのではないか。そこが改善されれば、Aさんを取り巻く職場の雰囲気の悪さも改善される可能性が高い。 では、そのためにはどうすべきなのか。 まず第1に必要なのは、Aさんにメタ認知の心の構えを植えつけてあげることである。Aさんにメタ認知の姿勢が欠けていることが雰囲気の悪さをもたらしていると思われる。そのことへの気づきを促すような対話をしていくのがよいだろう。