密着ドキュメント「涙のパリ」、ニッポン男子バレー"史上最強チー ム"の肖像
52年ぶりのメダル獲得なるか。パリ五輪でかつてないほど大きな期待と注目を集めていた男子バレー"史上最強チーム"は、準々決勝イタリア戦でフルセットの激闘の末に敗れ去った。 【写真】パリ五輪で激闘を繰り広げた史上最強チーム 4回もマッチポイントを握りながら、なぜあと1点が取れなかったのか。見る者の心を確かに揺さぶったこの一戦を、選手たちの言葉と共に振り返る。 * * * ■西田「このバレーで負けるなら仕方ない」 8月5日、パリ南アリーナ。パリ五輪の男子バレーボール準々決勝で、日本は世界ランキング2位の強豪イタリアとフルセットに及ぶ激闘を繰り広げていた。 キャプテンで、エースでもある石川祐希のスパイクがブロックされ、マッチポイントを奪われる。すかさずタイムアウトを取ったが、時速114キロのサーブで崩され、スパイクを打ち込まれた。日本の敗退が決まった。 多くの選手がうなだれ、肩を落とす。アウトサイドヒッターの髙橋 藍は湧き上がる感情を抑えようと怒っているように見えた。オポジットの西田有志が、髙橋の肩に手をかける。石川は円陣を組むベく選手たちを集めたが、呆然とする自分を支えるように腰へ手をやった。 「金メダル」 チームはその目標に向かって進み、実績も積んできた。ネーションズリーグでは昨年が銅メダル、今年が銀メダル。石川、髙橋は世界最高峰のイタリア・セリエAでタイトルを争うほどで、人材に恵まれていた。〝史上最強〟の呼び声も高く、52年ぶりの金メダルも夢ではなかった。 イタリア戦も、勝利にあと一歩まで迫った。1、2セットを連取。3セット目に24-21とマッチポイントを迎えた。ところが、それを取り切れずに落とすと、立て続けに3セットを奪われた。 なぜ、彼らは「あと1点」に届かなかったのか? 「あれだ、これだ、と言われるかもしれませんが、全部、結果論。このバレーで負けるなら仕方ない。自分は納得しています」 試合後、西田が言った。その言葉どおり、日本は強豪イタリアに対し、輝かしいバレーを見せた。 グループリーグではドイツにフルセットの末に敗れ、アルゼンチンには勝利したものの、アメリカに敗戦。「メダル」の重圧があったようだが、勝ち進むしかない準々決勝で本来の姿になった。拾って、つないで、跳んでとスペクタクルなバレーを見せた。 では、特定の選手の問題だったのか? 石川は「戦犯」と叩かれ、本人も「僕が点を取り切れず、この結果にした」と自責の念に駆られた。アメリカ戦のようにコンディションが悪い試合はあったものの、アルゼンチン戦ではフェイクセット(スパイクと見せかけてトス)を成功。言われるほど悪かったわけではない。 イタリア戦でも、石川はスターの片鱗を見せた。世界有数のオールラウンダーは、手堅いレシーブから入り、イタリアに主導権を与えない。サーブも強烈。そしてトスを託されると、面白いようにスパイクを決めた。 欧州最高のブロック陣を誇るイタリアを相手に、ブロックアウト、バックアタックで翻弄。チーム最多の32得点だ。 「限られた試合でどれだけベストを尽くせるか、自分たちのバレーができるか。結果以上にそこが大事。それがなければ、結果もついてこない」 大会前、石川はそう語っていたが、その言葉どおり、日本のバレーでイタリアを凌駕し、1セット目を25-20で奪う好スタートに貢献した。