密着ドキュメント「涙のパリ」、ニッポン男子バレー"史上最強チー ム"の肖像
■スター軍団をまとめたフランス人の名将 スター軍団だからこそ、注目も浴びた。イタリア戦のテレビ中継の視聴率は20%以上を叩き出したという。そのプレーはバレーファンでなくとも魅力的に映った。強豪イタリアと真っ向勝負、プレーの工夫や機動力でバレーの面白さを全開にさせていた。 「ブラン監督と一緒に、オリンピックでメダルを取って喜びたかったですね」 髙橋は言う。 「今の自分があるのは、ブラン監督がサポートしてくれたのが大きい。イタリア(セリエA)挑戦も彼の誘いから始まったので。練習でもレシーブ、スパイクのことをしつこく言われていました。 今のディフェンス力やスパイクがあるのはブラン監督のおかげもあって......。その監督を勝たせることができず、メダルを取れなかったのは悔しい」 ブランがコーチを務めた東京五輪で日本はベスト8に入り、大会後に監督に就任すると、日本はさらに強くなった。 この大会でも采配はさえた。アメリカ戦では3セット目から石川に代えて大塚達宣を起用し、グループリーグ通過につながる1セット奪取に成功した。選手との距離感が絶妙で、例えば不満がありそうな選手を練習中にわざと小突き、気持ちを吐き出させていた。 「勝たせられずにすまない。このチームのことは一生忘れないだろう」 ブランは選手たちにそう話したという。選手たちは涙を流し、感謝を込めてブラン監督を胴上げした。一体感のあるチームだった。 「パリの涙」 あえて言えば、そんな表現の一戦か。プレーに希望があふれていただけに落胆は大きく、「金メダルもいけた」と惜別がにじむ。幕を下ろした瞬間は涙に暮れるしかない。 「日本バレーが、その(イタリアに勝つべきだったと言われる)レベルまで来たことを誇りに思う」 西田のコメントこそ真実だ。日本は世界の壁に阻まれたのではない。世界の真っただ中で戦い、敗れた。準々決勝敗退の結果は東京五輪と変わらないが、グループリーグ突破が目標の前回から、金メダルを目指して戦い、未知の風景があった。 パリの涙は彼らを強くする。 取材・文/小宮良之 写真/JMPA