「お前らは犬を飼うなと言われているようで嫌だった」貧しい家庭で育ったパックンが、自身の経験から考える貧困支援のあり方
お笑い芸人のパックンことパトリック・ハーランさんは、学生時代に貧しい家庭で育った経験がある。「貧困家庭には、金券や品物ではなく現金を給付してほしい」と語るパックンさん。貧困の当事者にとって本当に必要なものはなにか、話を聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
「現金給付=働かなくなる」ではない。貧困層へ現金支援が必要な理由
――パックンさんは学生の頃、貧困家庭で育ったとうかがいました。 パックン: 両親が離婚して、お母さんが僕を引き取ってから、1人で僕の生活費や学費を稼ぐことになりました。ただ、残念ながら当時のコロラド州は、女性が安定した収入を得られる仕事に就くのは難しくて、就職しては失業するという繰り返しだったんです。僕が日本でいう高校2年生後半のころに、お母さんが学校の先生になって、やっと安定した収入が入るようになりました。それまではかなり生活が厳しかったですね。 お母さんは自分のことを後回しにして光熱費や食費を支払ってくれていたので、それ以外のものは自分で出せるようにお金を稼ごうと思いました。それで、10歳の誕生日の翌日から大学に入る日まで、新聞配達のアルバイトをしていたんです。他にも、お菓子の訪問販売や芝刈り、雪かきなど、近所でできることをやって小銭を稼いでいましたね。お母さんに「これを買ってほしい」とおねだりをしたことは、おそらく一度もないです。 ――アメリカでは経済的に苦しい家庭に対してどういった施策があるのでしょうか。 パックン: 地元コロラド州には、お店で食料品を買う時に使える金券「フードスタンプ」が支給されるという制度がありました。今はプリペイドカードですが。 支援はありがたいですがこのフードスタンプ制度、僕は大嫌いなんです。金券を用意するのに印刷代、郵送代もかかりますよね。あとはフードスタンプと引き換えに食べ物を売ったお店は、換金の手続きもしなきゃならないから、管理費もかかる。その分にかかるお金を全額貧困家庭にまわしたほうがいいのに、と思います。 それに、スティグマ的な制度だなって思うんです。スティグマは「烙印」という意味ですね。フードスタンプを使うことで、貧困者という烙印を目に見える形で押されているような気持ちになりますからね。 フードスタンプを使おうとすると、お店によっては断られることもありましたし、使えるものも限られているんですよ。僕がすごく覚えているのは、お母さんと一緒にスーパーに行って、飼っていた犬のためのエサを買おうとした時のこと。お母さんがフードスタンプを渡したら、レジの人が大声で店長を呼んで「フードスタンプで犬のエサを買おうとしてるんだけど、どうする?」って言ったんです。ほかのお客さんがいる前でそんなことをされたら、この人は財布にお金がなくて、家にお腹がすいた犬もいる……って知らしめているようなものじゃないですか。お母さんはすごく恥ずかしそうでした。 犬は贅沢品、貧困家庭が犬を飼うな、という考えが根底にあったからそういう言葉が出たんだと思いますけど、「僕らが犬のエサを食べようとしてる」みたいな、そんな目で見られている気もしてしまって、すごく辛かったです。