本当は“送料無料”ではなく“送料込み”――物流業界が2024年に直面する働き方改革の実情
2019年に施行された働き方改革。来年には、これまで対象外だったトラックドライバーの残業が規制され、「2024年問題」として物流業界の人手不足が懸念されている。ドライバーが業務に従事する時間が減ることで、運べる荷物も減ることが問題視されているが、トラックドライバーの経験を持つライターの橋本愛喜さんは「問題の本質は別のところにある」と訴える。橋本さんが2024年問題で懸念していることやドライバーの過酷な労働環境の現状について聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
トラックドライバーの「2024年問題」とは?
――トラックドライバーを取り巻く「2024年問題」について教えてください。 橋本愛喜: 2019年に労働基準法が改正され、いわゆる働き方改革関連法が施行されたのですが、自動車運転の業務にはすぐに適用されませんでした。トラックドライバーは慣行的に長時間労働が根づいており、すぐには改善されないだろうということで、5年間の猶予期間が与えられたのですが、それが2024年3月末に終わります。 今までトラックドライバーには、慣例として拘束時間と休憩時間によって働ける時間が決まっていて残業時間という概念がなかったのですが、2024年4月からは残業が年間960時間までと変更になります。労働時間が減るということは、単純に今まで運べていた荷物数を運べなくなるということになるため、一般的に「2024年問題」として懸念されています。 よくメディアでは2024年問題は「宅配」で語られていますが、実はこの一番の当事者は「企業間輸送」、つまりBtoBの輸送するトラックドライバーたちです。輸送量ベースでいうと、宅配はわずか7%以下。もちろん宅配にも大きな問題はありますが、2024年問題は「ECサイトで買った物が届かなくなる問題」ではなく、「ECサイトで買おうとした物が作れなくなる問題」なんです。 ――橋本さんご自身が2024年問題について懸念しているのはどういった点でしょうか。 橋本愛喜: 取材でトラックドライバーに「労働時間減るけど、どう?」って聞いたら、あまり歓迎していないんですよね。企業間輸送のドライバーは特に歩合制で働いてる人が多いので、給料が減るわけですから。生活水準を保つために仕方なく長時間働いてる方も多いんです。でも、国や有識者はとにかく労働時間を短くしなければならないというところに躍起になっていて、ドライバーの給料面が軽視されていることを懸念しています。 そして、国や世間一般では「荷物が運べなくなる」という話ばかりが大きくなっている。働き方改革がベースにあるのに、結局、心配しているのは荷物で、トラックドライバーではないのかと思ってしまいます。 ――長時間労働になると過労死につながるという意見もありますが、これに対してはどう考えていますか。 橋本愛喜: もちろん労働時間を減らすのは大事ですが、トラック業界での過労死は、長時間労働だから過労死なのではなく、長時間労働を含めた全体の労働環境が過酷だから過労死につながっているという側面が大きいと思います。 基本的にトラックドライバーは荷主さんの都合で動いています。例えば「8時に荷物を受け取りに来なさい」って言われて、8時に行ってもまだ荷物がないことがある。それで数時間から半日待たされてしまうケースがあるんです。しかも、荷主の指示で「呼ばれたら、すぐ入れるところにいなさい」と言われて、コンビニにもトイレにも行けないこともあったりする。そんなことが続くと、体調に影響が出ることもありますよね。 さらに夏場は皆さんが想像しているより過酷です。荷主さんの中には、荷下ろし直前などの待機時間に、アイドリングストップをさせることがあります。そうすると、無風の敷地内で直射日光の下、エアコンが止まった状態の車内で待機になる。地球環境を心配しなければならないのもわかりますが、労働環境としてはどうなのかって思いますね。 ――企業間輸送の労働環境が過酷になってしまう背景にはどういった問題があるのでしょうか。 橋本愛喜: 大手運送会社の手に余った荷物が下請けに出されるんです。大企業が「これだけの金額で頼むね」と言うと、受け手側は抗議できないし値上げしてって言えない構造になっています。またその下請けが孫請けに出せば、その分金額も安くなっていく。私が調べた事例では7次請けまでありました。そうすると、「実運送」という実際に車で走る人が、非常に安い運賃で走らざるを得ない。走らないと次に仕事がもらえないかもしれないから、安くても走るんですよね。 つまり、2024年問題で「人手不足だ、荷物が運べない」と言っているのは「劣悪な労働環境でも運んでくれる人手が不足している」という状態なんです。そんな状況なのに、現場のみに法的なペナルティが科されている。荷主の指示通りに動くほかないのに、荷主には罰則が今のところない。2024年問題とは荷物が運べなくなる問題というよりは、ドライバーをないがしろにする、意識が低い荷主によって、そもそも労働環境の悪いドライバーがさらに無理難題を押し付けられ、より疲弊する問題だと思っています。ここに来て、ようやく荷主にも何か規制が必要ではないかという声は出てきましたけれども。