更年期症状の治療に「プラセンタ」を「おすすめできる人」とは?微妙に知られざるプラセンタの利点、極めた専門医が解説
なぜ女性ホルモンを含有しないのに効果があるのか?
そもそもは前述の通り、ソ連の「いろいろなものを移植して試す」文化の中で、胎盤の移植が更年期症状の緩和に奏功したため研究が進んだのがプラセンタ。 「じつは、なぜかはわからないけれど効くからと使っていて、あとから理由が判明することは多々あります。プラセンタはたとえば、保険外ではアレルギー、PMS、生理痛などにも手応えがありますし、美容にも使われます。これらのことから、免疫系にも関与しているのではないかなと考えています。そもそも胎盤とは母体と、母体にとっては異物である胎児を共存させるための中継地点ですから、今後は再生医療にも関連するのかもしれません」 とはいえ、女性医学学会が定める「ホルモン補充療法ガイドライン」では、プラセンタはホルモン補充療法(HRT)の代替にはならないと明確に書かれていますよね? 「前述の通り、女性ホルモンが含まれていないため研究が進んでないのもその理由の一つです。さらに、プラセンタ自体の価格が安いうえ、研究をしてもインパクトファクターがあまりないため、研究を進めるメリットもなかなかありません。ですが、更年期専門外来も担当する私のような医師にとっては、HRTや漢方が奏功しないケースではプラセンタが頼みの綱になるのも事実。何より患者さんの体感がよく、調子がいいので治療頻度を上げたいとリクエストを受けることもよくあります」 特に頼りになるのは、女性ホルモンが禁忌となる疾病です。特に「ホルモン受容体陽性の乳がん」は女性ホルモンの分泌を抑えて治療するため、更年期障害のような不調が出現します。この不調にホルモン補充療法(HRT)は使用できないため、代替にプラセンタが有力となるのです。 「最近人気のエクオールも元をたどれば大豆であり、何がどう効くかは経験によるところが大きいのです。プラセンタ製剤は最初1950年代に製造承認されたにもかかわらず製造がたった2社、薬剤で言えばメルスモン・ラエンネックの2種類しかありません。これは、原料となる胎盤の数に限りがあることも理由で、現在は全量が国産で供給されています。これは逆に、製造上の安心の根拠となります。あまり急激に注目されると供給できなくなるかもしれませんが、これだけ手応えがあるのですから医師としてはもっと広く治療に使われてほしいと感じますね」 さきほど価格が安いとおっしゃいましたが、どのくらいのプライスなのでしょうか? 「更年期障害の診断がある場合、1日1アンプルで月15回まで保険適用で、1回500円ほどです。他に乳汁分泌不全、肝機能障害の治療も保険が適用されます。私のクリニックには、プラセンタを指名で受診する人もいます。お友達が更年期障害を当院で治療なさっていて、プラセンタが効いたわよと口コミでお見えになるんですね。ただし、プラセンタには1つだけ問題があり、一度注射をしてしまうとそれからは献血をできなくなる点。ヒトの胎盤を利用しているためですが、現在までのところ、ウイルス性肝炎やHIV感染、ヤコブ病の感染を起こした例は国内で1例も報告されていませんので、安全性は高度に担保されていると捉えて大丈夫です」