フリーランスの人と発注事業者とのトラブル 最も多いものは?…フリーランス・事業者間取引適正化法施行
フリーランスの立場で働く人の保護を掲げる「フリーランス・事業者間取引適正化法」が11月1日に施行された。個人事業主らに仕事を発注する企業に対し、報酬の不当な減額を禁止し、ハラスメントの防止を義務付けたことなどが柱だ。同法を巡っては、国会で付帯決議が採択されるなど積み残された課題もある。(板垣茂良) 【図解】フリーランス・事業者間取引適正化法のポイント
「買いたたき経験」7割
「業務委託の報酬を10%引き下げたい」 出版業界でフリーランスとして働く東京都内の50歳代女性は2年前、契約先の編集プロダクションから突然、告げられ、言葉を失った。会社側は減額の理由について、消費税に関する申告制度(インボイス)の導入によって税負担が新たに生じることを挙げたという。 提案をのめば、年収は約40万円も減ってしまう――。慌てた女性は、労働組合「ユニオン出版ネットワーク」(東京)の協力を得て、会社側に提案の取り下げを求めた。再三にわたる交渉の末、女性は報酬減額を免れたが、「立場の弱さを痛感した」と振り返る。 公正取引委員会と厚生労働省が今年5~6月に行った実態調査の結果によると、フリーランスで働く人の3割が、発注時に決めた報酬を後で不当に減額された経験があると答えた。7割は報酬を通常より著しく低く設定する「買いたたき」に遭っていた。 同労組で相談員を務める杉村和美さん(72)は「契約を打ち切られるのではないかという恐怖から、理不尽な提案でも受け入れてしまう人は少なくない」と言う。報酬の未払いや、当初の契約に含まれていない追加の仕事を無償で頼まれた――などの相談も多いという。
発注者に不当要求禁じる 推計462万人
11月1日に施行された新法は、こうした立場の弱い個人事業主らを保護する目的で制定された。 具体的には、不当な報酬の減額や買いたたきを禁じたほか、書面などによる取引条件の明示、育児・介護と仕事の両立への配慮、ハラスメント被害を相談する社内の体制整備などを、発注事業者に義務付けた。違反した事業者に対しては、公正取引委員会などが是正を求める指導や助言、勧告などを行う。 国の推計(2020年)によると、フリーランスとして働く人は約462万人に上り、今後も増加するとみられる。厚労省は「スマホアプリを通じて単発の仕事を請け負うギグワーカーなど、働き方は多様化している」(雇用環境政策室)として、新法をきっかけに、安心して働ける環境の整備に力を入れていく考えだ。