「僕には才能がない」ロッテ・澤村拓一35歳が語る“常に逆境”の野球人生
戦力外の恐怖と闘っていた巨人時代
きっぱりと「あのときは挫折」と言い切るのが、巨人でプロ10年目を迎えた2020年のシーズンである。中継ぎとして結果が伴わず、先発のチャンスも生かせない。一軍のマウンドからも遠ざかった。 「何をやってもうまくいかない時期に差し掛かっていたと思うし、戦力外の不安や恐怖とも闘っていました。もう野球は終わりかくらいに考えていたし、足を半分そこに突っ込んでいましたから」 救ってくれたのが、ダメなときにダメだと言ってくれる友人たちであった。 「自分の可能性をとにかく信じてくれたんです。だからこそ自分もその気になったし、自分の力を信じることができました。言葉の力って大事なんです。僕は常に逆境です。追い風なんて一回もないですよ。向かい風ばかり。でも最終的にははねのけてきたでしょみたいな感じの捉え方を周りがしてくれたので、僕としては助かりました」
振り返ってみれば、澤村の野球人生は逆境の連続だった。エースになれなかった佐野日大高から中央大へ進学したものの「あまり期待されてはいなかった」。それでも大学4年間を通じてピッチングに磨きをかけ、巨人からドラフト1位指名を勝ち取るわけである。 「僕には持って生まれた才能がない。だから誰よりも練習をやってきた。体が強いというのも、強くしてきたから強いわけで。積み重ねることしかできない」 積み上げることをやめなかったからこそ、再び輝き始める。 2020年9月7日、ロッテへの電撃トレードが発表されると、即出番が回ってきた。ユニホームが間に合わなかったために打撃投手の「106」を背負って登場し、3者連続三振でねじ伏せた。この日の活躍はロッテファンの語り草となる。結局22試合に登板して、チームはソフトバンクに大差をつけられたとはいえ13年ぶりとなる2位にこぎつけている。2020年限りでクビまで覚悟した男は、ロッテで再生してレッドソックスではポストシーズンのマウンドにも立つというストーリーを描いた。 V字回復ならぬ「ナイキ(のマーク)よりも上がっていた」。