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挑発を続け「主役」となった元K-1皇治は、『RIZIN.24』那須川天心戦で何をするつもりなのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
「天心を泣かせてやる!」と挑発を続ける皇治。(写真:RIZIN FF)

いきなりの直接対決、吠える皇治

「天心の弱点はわかっている。試合でやることはひとつ。いまはファイターとして強くなるのではなく、天心を泣かすためだけのトレーニングをやっている」

「俺はいつも有言実行だから。日本をひっくり返すようなヤバい試合をする。何が起こるか楽しみにしておいて欲しい」

さまざまなメディアに登場し、皇治が吠えまくっている。

一体、何が起こるのか?

不穏な空気が漂う。

9月27日、さいたまスーパーアリーナで開催される『RIZIN.24』。

今回は地上波放送(フジテレビで生中継)もあり全11試合が組まれている。

対戦カードは、以下の通りだ。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

バンタム級新王者・朝倉海、約10カ月ぶりの参戦となるRENA、江幡塁の双子の兄・睦の初登場も目を引くが、最注目カードはやはり、那須川天心vs.皇治のキックボクシングマッチであろう。

RIZINキックボクシング部門のエースである天心と、K-1から電撃移籍を果たした皇治の対決──。

当初は、皇治がRIZINのリングで1、2試合こなした後で天心に挑むのではと見られていたが、いきなりの直接対決となった。

格の違いは明らか、冷静な天心

さて戦前の予想だが、「天心優位」との見方が圧倒的だ。

両者の、これまでのキックボクシング戦績は次の通り。

35戦35勝(27KO)/那須川天心

43戦28勝(10KO)13敗2分け/皇治

数字が示す「格」の違いは明らかで、スピード、パワー(破壊力)、テクニックのいずれにおいても天心が上回っている。私も、天心が圧勝すると予想している。

挑発を続ける皇治とは対照的に、天心は冷静だ。

9月19日、千葉・新松戸にある「TEPPEN GYM」での公開練習の後、天心は普段と変わらぬ口調で次のように話した。

「最高潮に仕上がっています。今回の試合に限らず常に(格の)違いを見せつけるつもり。

(戦争とか喧嘩とか皇治が挑発しているが)僕にとっては普通に格闘技ですから」

皇治戦は、天心にとってメリットのある闘いではない。

(KOで勝って当然)

そう周囲から思われているからだ。

だが、モチベーションを切らすことはない。

「地上波のテレビ放送があるので、テンションがさらに上がります」と。

9月19日に行われた公開練習直後に「格の違いを見せつけます」と話した那須川天心(写真:RIZIN FF)
9月19日に行われた公開練習直後に「格の違いを見せつけます」と話した那須川天心(写真:RIZIN FF)

皇治が抱くファイトプラン

対して皇治には、大きなメリットがある。

ほとんどの人が、彼が天心に勝てるとは思っていない。KOされると見られているのだ。

そんな中で、勝てなくても見せ場を作り善戦をすれば、知名度も評価も上昇するのである。

すでに、この一戦の興味は「皇治が何をするのか?」に集まっており、主役の座も奪ってしまった形だ。

ふと気づくことがある。

皇治は天心を挑発し続けているが「俺が勝つ!」と積極的には発言していない。むしろ、多く口にしているのは、

「盛り上がることをやりたい」

「格闘技界が盛り上がればいい」

というワード。

果たして皇治は、どんな闘いをするつもりなのか?

おそらくは、勝ち負けよりも「魅せる」ことに重点を置いているのだろう。彼の持ち味は「打たれ強さ」と「精神力も加味してのスタミナ」である。これをフルに活かし消耗戦に持ち込むつもりではないか。

天心相手に下がることは、許されない。そんな状況を作れば一気に畳みかけられてしまう。前へ前へと出て距離を潰し、決定的な一打を防ぎながら時間を進める。時にはノーガードの姿勢を取り天心のペースを乱そうとするかもしれない。この展開を6分間(2ラウンド終了まで)保てたなら、互いのキャリアを超えた魂の闘いに突入できる。

最終ラウンドまで持ち込み、見せ場を作ることが皇治のファイトプランだろう。

2年前の12月、K-1史上初の3階級制覇王者・武尊と闘った際に皇治はダウンを喰らい判定負けを喫するも、KOは許さなかった。打たれ強さと精神力で魅せた。

だが、天心相手に最終ラウンド終了のゴングが鳴り響くまで立っているのは難しいと見る。強打を誇るものの武尊の攻撃はオーソドックス、対して天心は攻めのバリエーションが多彩でスピードもある。武尊が倒し切れなかった相手を、決死の覚悟で仕とめにかかろう。天心は「皇治劇場」につき合わない。ここで勢いを止められるわけにはいかないのだ。

皇治の秘策は、我々の想像を超えるものなのか?

会場は彼の言う「新しい景色」に彩られるのか?

それとも…やはり、天心の強さを再認識することになるのか?

緊張感が漲る。決戦のゴングが待ち遠しい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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