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護衛艦「いずも」、正真正銘の空母へ。F35Bの発着艦に必要な改修費31億円を計上

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海上自衛隊史上最大の艦艇である護衛艦「いずも」(2018年2月、高橋浩祐撮影)

政府は12月20日、過去最大の5兆3133億円に及ぶ2020年度防衛予算案(米軍再編経費を含む)を閣議決定した。アメリカのトランプ政権が2017年12月に策定した国家安全保障戦略と、安倍政権が2018年12月に策定した防衛計画の大綱に基づき、宇宙、サイバー、電子戦といった新たな領域での能力強化を打ち出している。

●概算要求の満額が認められる

防衛予算の中で注目されるのが、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」に、短距離離陸と垂直着陸が可能な最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載できるよう、改修費の予算31億円が初めて計上されたことだ。今年8月の概算要求の満額が認められた格好だ。

海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の飛行甲板(2018年2月、高橋浩祐撮影)
海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の飛行甲板(2018年2月、高橋浩祐撮影)

海上自衛隊史上最大の艦艇である護衛艦「いずも」(全長248メートル、全幅38メートル、高さ49メートル、基準排水量1万9550トン)にF35Bを発着艦させるための部分改修費として、31億円は安すぎないか。8月の概算要求の取材の際に、筆者は率直にそう思った。2018年2月に実際に「いずも」に搭乗し、乗組員たちを取材した際、飛行甲板の耐熱処理にはかなりの費用がかかると聞いていたからだった。ただ、その一方、飛行甲板と格納庫を上下につなぐ航空機運搬エレベーターの大きさや耐重量の仕様は、将来のF35B搭載を想定して設計製造されているのが、その当時からもうかがえた。

飛行甲板と格納庫を上下につなぐ航空機運搬エレベーター(2018年2月、高橋浩祐撮影)
飛行甲板と格納庫を上下につなぐ航空機運搬エレベーター(2018年2月、高橋浩祐撮影)

●「いずも」はすでに空母化

国内メディアは、これで「いずも」が空母化すると話題にしている。しかし、これは国際基準でみればおかしい。筆者が東京特派員を務める英国の軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、以前から「いずも」を、「ひゅうが」「いせ」「かが」と同じ「ヘリコプター空母」とみなしている。ジェーンズが発行する「Jane's Fighting Ships」は世界の海軍の国際基準になっているから、こちらが世界の常識だ。「いずも」はすでにヘリ空母であり、「空母化」されているのだ。それでも、あえていえば、今回の予算措置で、「ヘリ空母」かられっきとした正真正銘の「空母」になるということだ。

海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」の格納庫におさまるSH-60J哨戒ヘリコプター(2018年2月、高橋浩祐撮影)
海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」の格納庫におさまるSH-60J哨戒ヘリコプター(2018年2月、高橋浩祐撮影)

防衛省によると、いずもの改修としては、2020年度は飛行甲板の耐熱処理工事や誘導灯の設置などが予定されている。改修は、5年に一度実施される2019年度末からの定期検査を利用して行われる。2020年度にわたる定期検査中の1年間、部分改修を実施するという。

海上幕僚監部広報室は「特殊な塗装などによる甲板の耐熱強化や電源設備の設置など、F35B搭載に向け、最低限の改修を行う」と説明する。

「いずも」の2020年度に続く次回の大規模な定期検査は、5年後の2024年度末から始まる。海上自衛隊はその機会をとらえて、F35Bの発着艦を可能にするため、「いずも」の2回目の残りの大改修を行う予定だ。ただし、この2回目の改修の具体的な内容は明らかにされていない。

さらに、いずも型護衛艦の残りの一隻である「かが」は、2021年度末から5年に一度の大規模な定期検査に入る。これを機に、かがはF35B搭載に向け、大規模な改修を行う予定だ。いずもの改修と違い、かがは一回こっきりの大規模な改修になる。

海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」(2018年2月、高橋浩祐撮影)
海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」(2018年2月、高橋浩祐撮影)

防衛省は、いずも型護衛艦「いずも」と「かが」に搭載するF35Bの6機の取得費として2020年度予算で793億円を確保した。このほか、整備用器材費などF35B関連費用として235億円を得た。防衛省によると、F35Bは2024年度に調達される予定だが、国内配備先はまだ決まっていないという。

海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の操舵室(2018年2月、高橋浩祐撮影)
海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の操舵室(2018年2月、高橋浩祐撮影)

防衛省当局者は「(F35Bの)取得までに5年かかる。令和2(2020)年度予算に計上すると、モノがオンハンドされる(手元に届く)のが令和6(2024)年度になる。パイロットは、それから訓練開始となる」「いずれにせよ、日本にF35Bが届くのは令和6年度になる。部隊養成をしていくのはそれ以降になる。しばらく先の話になる」と述べた。

海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」の格納庫におさまるSH-60J哨戒ヘリコプターの機体側面(2018年2月、高橋浩祐撮影)
海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」の格納庫におさまるSH-60J哨戒ヘリコプターの機体側面(2018年2月、高橋浩祐撮影)
米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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