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終わりが見えないNGT48問題──AKS社と第三者委員会が招いた混迷

松谷創一郎ジャーナリスト
2016年6月18日、新潟市で行われたAKB48総選挙の終演後(筆者の友人撮影)

 今年1月にファンからの暴行被害を訴えたNGT48のメンバー・山口真帆さんが、今日5月18日に卒業公演をおこなう。ともに卒業を発表した長谷川玲奈・菅原りこの両メンバーとの3人だけの公演となる模様だ。大人数のメンバーを擁する48グループの卒業公演では、異例の事態だ。

 山口さんが卒業を発表をした4月21日の公演では、運営会社・AKSの社長から「会社を攻撃する加害者だ」と非難されたことを明かし、いまだに同社や他メンバーとの確執が解消されていないことも浮き彫りとなった。

 終わりの見えないこの問題は、はたしてどこに向かうのか。多角的に検証していく。

終わらない“犯人探し”

 今回の一件は、山口さんがグループから去った以降も、NGT48に厳しい視線が向け続けられることは容易に想像がつく。多くのひとが抱いている疑惑は、他メンバーの事件への関与だ。現在も、ネットでは日々“犯人探し”が続いている。

 こうした事態を招いた主要因は、3月21日に発表された第三者委員会の「調査報告書」にある。そこでは、事件直後の録音データおいて、加害者がメンバーの関与に言及していたことが判明している(「調査報告書」p.10)。

 だが、第三者委員会は重大な関与の事実を認めなかった。つまり、「山口真帆を襲え!」などと他メンバーがそそのかした事実はないとした(事実として認めたのは、メンバーAが山口さんの帰宅時間を不意に教えてしまったことのみだ)。理由は、関与があったとされるメンバーたちがそれを否定し、加害者側からは聞き取り調査が行えなかったからだ。警察のような捜査権がない第三者委員会が、「疑わしきは罰せず」という結論に達することは現実的にありうるのかもしれない。

 ただし、そうした結論に説得力をもたせるためには、第三者委員会に対する信頼性が前提となる。この一件で、いまだに他メンバーの関与疑惑が収まらないのは、そもそもこの第三者委員会の“独立性”(“第三者性”)、つまり信頼性が損なわれているからだ。

 たとえばジャーナリスト・竹内一晴さんの記事では、報告書発表前の段階ですでにこの第三者委員会の“独立性”に対して疑義が呈されていた(「NGT、厚労省、日大にみる第三者委員会の不可解」『東洋経済オンライン』2019年3月5日)。そこでは、日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」策定の中心的存在であった久保利英明弁護士が、第三者委員会の連絡窓口がAKS社にされていたことに対して「その時点でアウト」と述べているなど、複数の問題が早い段階で指摘されていた。

 報告書の発表後にも、複数の弁護士や団体がその内容を疑問視する声を挙げている。具体的には、芸能人の権利を守るために弁護士によって設立された日本エンターテイナーライツ協会(ERA)や、ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士がそうだ。

 この両者の批判には共通点が多い。列挙すると以下の四点に集約される。

  1. 記者会見をしない第三者委員会の対応
  2. 調査の不十分さと、それによる事実認定(他メンバーの関与等)の甘さ
  3. 被害者である山口真帆さんへの配慮のなさ
  4. 再発防止等、改善策の提言の不十分さ

杜撰だった第三者委員会

 複数の専門家からこのような共通した批判がなされるのは、そもそもこの第三者委員会の調査報告書が事件の事実関係に特化していたこととも関係する。AKS社の運営体制についての調査もおこなわれているが、分量は多くなくその具体性も乏しい。

 こうした不備は、この報告書発表からちょうど1ヶ月の4月21日におこなわれた、山口さんのNGT卒業発表の際のコメントによって、一段と明白になった。このとき山口さんは、「事件のことを発信した際、社長には『不起訴になったことで事件じゃないということだ』と言われ」たと述べた(「NGT48山口真帆、卒業発表『このグループに変わってほしかった』【コメント全文】」 『ORICON NEWS』2019年3月21日)。

 山口さんがこう言われたのは、「事件のことを発信した際」なので1月8日頃だと考えられるが、このようなAKS社の対応については3月21日付の報告書にはいっさい書かれていない。この調査がきわめて不十分なのは、こうしたことからも確認できる。

 かように手続き的にも内容的にも、第三者委員会の報告書には非常に問題が多かった。結果として生じているのは、報告書では「シロ」と判断された残留メンバー40名弱に対する疑いのまなざしだ。ネットでは、噂や推測をもとにした“私刑”が横行している惨状が続いている。

 加えて、新潟市はNGT48のPR起用を中止し、あるメンバーのPR活動もネットでのバッシングを受けて取りやめとなった。また筆者は、大手メディア企業のある媒体が、NGT48だけではなくAKS社がマネジメントする他グループとの取引(AKB48やHKT48など)も見合わせているとの情報も得た。

 現在、AKS社は加害者の男性二名に対して民事訴訟を起こしているが、現実的にこれがどれほど幕引きに繋がるかは不明だ。たとえ、民事裁判の過程で他メンバーの関与がなかったとの判断がなされても、山口さんへの対応など運営体制の問題が払拭されるわけではないからだ。

明らかなAKS社の人員不足

 第三者委員会の手続きなど、今回の一件で明らかになったのは、やはりAKS社の運営体制の問題だ。

 それは、多くの不備が見られる第三者委員会の調査報告書からもいくつか確認できる。なかでも、マネジメント体制の人員不足は確実に確認できた。報告書の14ページに詳細があるが、42名のメンバーに対し、6名のマネージャーで対応していることがわかる。

NGT48第三者委員会「調査報告書」2019年、p.14
NGT48第三者委員会「調査報告書」2019年、p.14

 このなかでメンバーたちの仕事に帯同する現場マネージャーは、各チームの「担当マネージャー」3人のみだと考えられる。これは明らかに少ない。

 筆者は過去に何百人もの芸能人にインタビューしてきたが、キャリアの浅いタレントは移動も電車を使い、マネージャーも固定されてはいないケースがある(取材中にマネージャーが交代したこともあった)。またある大手のプロダクションは、映画のメインキャストであるにもかかわらず、マネージャーは帯同せず高校生の女優を現場にひとりで行かせていた。

 このようなAKSのマネジメント体制について大手芸能プロダクションの元マネージャーに訊いたところ、以下のような感想を述べた。

「この人数だと、一人一人と向き合うことがほぼできていないのは、想像に難くありません。大手でも十数人を受け持つことは珍しくないですが、その場合は半分ほどは稼働がない売れる前のタレントであることが通例です。なので、常に稼働しているグループの十数人をひとりで面倒見るのは、事実上不可能かと思います」

 こうしたAKS社のマネージャーの少なさについては、HKT48に所属していた指原莉乃も過去に指摘している。1月13日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)において、指原は約50人のHKT48のマネージャーが8人だと述べ、「数は絶対に足りてない」と断言した。

 AKS社の内情については見えないことも多いが、この事件以前からファンに運営の不備(たとえば握手会のスケジュール等)をしばしば批判され、その原因が絶対的な人員不足であると指摘されてきた。また、筆者の取材でも番組出演者のメンバーが前日まで確定しないなど、AKS社のレスポンスの悪さも耳にした。これらも、人員不足が原因だとすればある程度は納得できる話だ。

 AKB48グループの特徴は、大人数のグループであることだ。それはつまり、莫大なタレントの人件費が生じることを意味する。AKS社の人員不足がこうした要因にもとづくならば、そもそものビジネスモデルの問題だとも考えられる。

秋元康氏に責任はあるのか?

 今回の一件で多く論者が言及しているのは、総合プロデューサーの秋元康氏の責任についてだ。AKS社は秋元氏も創業者のひとりだが、現在は経営から退いている。現在のAKS社は、その株式の100%を吉成夏子社長が保有している、いわゆるオーナー企業である。

 一方で、秋元氏は48グループには総合プロデューサーとして関わり続けている。役割としては、楽曲制作などクリエイティブの責任者だ。それもあって秋元氏の責任の有無については、論者によって判断は異なる。だが、48グループにおいて大きな存在感を見せていることは間違いない。

 実際、今回の一件が発覚した直後には、AKS社の松村匠取締役が秋元氏に「叱責された」と述べており、依然としてその影響力の強さがうかがえる(朝日新聞デジタル2019年1月14日付「NGT運営幹部、公式の場で初謝罪『秋元康氏から叱責』」)。また、2013年に生じたAKB48メンバーの丸刈り騒動の際には、秋元氏は複数のメディアに登場して事情説明をした。そのときには、メンバーのケアに気を配っていると話していた。

各マネージャーから、もちろん僕が直接気づいたことであれば、僕が直接どんな下位メンバーであれ、あるいはたとえば研究生で僕も名前がよくわからない子でも、僕がその子のメールアドレスを聞いたり、あるいはマネージャー経由で指示する場合もありますし。

出典:『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』2013年2月23日(TBSラジオ)

 実際現在も、48グループのメンバーは秋元氏を「先生」と呼び、進路などについて個人的に相談しているケースが見受けられる。とは言え、こうした「ケア」が今回のNGT48のケースでは機能しなかった。もちろん現実問題として、6つの48グループだけでなく他にも多くのプロデュースを抱える秋元氏が、新潟にあるNGT48の運営に細かく関与することは考えにくい。そこでは前述した「ケア」ももちろん機能しにくい状況にあるだろう。

機能不全のAKS社ガバナンス

 こうした状況を踏まえて、NHK新潟放送局はNGT48のガバナンスの問題を指摘した(『新潟ニュース610』2019年4月9日放送)。それは、意思決定や責任の主体がAKS社なのか秋元氏なのか明確ではないという指摘だ。AKS社の松村取締役が秋元氏に叱責された事態は、まさにそれを端的に示した例だ。論理的には、「二重行政」状況によってAKS社の運営が上手く機能していないことも考えられる。

 AKS社のガバナンスの問題は、今回の件に対する一連の対応からも十分に感じられる。

 たとえば山口さんから反論された調査報告を押し切って、結果的に彼女が卒業にいたる事態になると、AKS社が厳しく批判されることは容易に想定できたはずだ。見方を変えれば、なぜこんな下手を踏んだのか?──という疑問を生じる。

 このとき推察できることは、論理的にはふたつある。

 ひとつが、“なにか”を隠蔽している可能性だ(合理的選択)。この“なにか”が表沙汰になると、現状以上のダメージを負うと想定すれば、これまでの選択も合理的に説明できる。

 もうひとつは、単に場当たり的に対処している可能性だ(非合理的選択)。幕引きばかりを急いで、逆に火が拡大しているというケースである。

 現状そのどちらかはわからないが、おそらく後者の可能性が高いと個人的には見ている。

 近年、ジャニーズ事務社など芸能プロダクションが批判される事態になることはあったが、ジャニーズにはその姿勢に一貫性があった。つまり、良し悪しはともかくそこに会社としての明確な“思想”が見えた(筆者などがジャニーズ事務所を批判したのは、その“思想”が時代遅れだったからだ)。しかし、AKS社の一連の対応からはそうした“思想”が感じ取れない。まるで学生企業のような雑さばかりが目につく。

地方における調査報道の限界

 今回の一件では、ネットを中心に多くの噂が飛び交っている。だが筆者は、近い関係者からネットではまだ流通していない複数の具体的な情報も得ている。それらは、もし事実だとしたら大騒ぎになる内容だ。

 だが、まだその情報は単なる噂でしかない。事実であるかどうか確認できないからだ。立ちはだかるのは予算や時間のハードルだ。情報の真偽を確認するためには、十分な時間を要する現地取材など、そうとうのリソースが必要となる。デイリースポーツの福島大輔記者も、この一件における“犯人探し”を憂慮しつつ、気になる一文をコラムに残した。

綿密な検証の上で具体的な根拠をもった上で行われなければ、どこまで行っても「私刑」に過ぎない。そういった事態を防ぐために、我々メディアはより深く取材を行い、事実の検証が完了した時点で報道する。

(中略)

実際のところ、この案件に対する取材は、恥ずかしながら十全ではない。それがまた、多くの憶測を生む“一助”になっているとしたら、忸怩たる思いだ。

出典:デイリースポーツ2019年5月11付「【芸能】NGT騒動にみるネットの“暴走” 行き過ぎた犯人捜し」

 注目すべきは、「取材が十全ではない」と述べているところだ。これはデイリースポーツだけでなく、今回の一件を追う多くのマスコミが抱いている思いだろう。

 そのもっとも大きなハードルは、新潟という距離にある。いくら情報を得ても、新潟に滞在して取材を進めるためには十分な予算と人員が必要だ。しかも取材を進めた結果として、その情報の裏(事実確認)が取れない可能性もある。空振りのリスクは常にある。

 さらにその前提には、取材コストに見合うニュースかどうかという判断がある。今回のケースでいえば、山口さんがファンからの暴行被害を訴えたものの大怪我はしておらず、加害者は不起訴処分にとどまった。このため、地元のテレビ局や新聞社でも、事件の事実性についての入念な調査をする可能性は低い。NHK新潟が、ガバナンス問題に重点を置いたのもおそらくこのためだ。

 他メンバーの関与疑惑を明らかにするために大きな予算を割けるメディアは、現状のところ存在するとは考えづらい。なぜかと言うと、今回のニュースはおもに週刊誌マターだからだ。しかし100万部を超える売上があった時代ならともかく、現在は地方で時間をかけた調査報道は週刊誌でもなかなか手を出せない。予算に見合うリターンが保証されないからだ。福島氏の「忸怩たる思い」という一文には、おそらくこのような背景がある。

 この一件をややこしくしているのは、現在のマスコミにとって「地方で起きた芸能界の問題」という面が高いハードルになっているからだ。

厳しい未来のNGT48

 おそらくこの一件は、この10年以上のあいだ、日本のポップカルチャーの中心にあったAKB48人気の終端に位置する出来事として後年捉えられる可能性がある。チャートハッキングの効果も失われ、総選挙も見送られたAKB商法は、数年前から低落傾向が続いていたからだ。込められていた最後の弾が、この一件で放たれたという印象だ。

 現実問題としてNGT48の未来はかなり厳しい。40名弱の残留メンバーは、今後も疑惑の目を向けられ続ける。たとえ、全員が本当に事件に関与していなかったとしてもだ。その状況で人気が再燃することは、到底考えにくい。加えて、AKS社の一連の不出来な対応は、禍根どころか残留メンバーの今後の芸能人生をも狂わせることにもなる。このままでは、NGT48が解散した以降も彼女たちはずっと疑惑のまなざしを背負って生きていかなければならなくなる。

 こうした状況を打開する最善の策は、やはり問題のあった第三者委員会の調査をやり直すこと以外にはないだろう。山口さんのためにも、ファンのためにも、残されたNGT48メンバーのためにも、AKB48やHKT48のためにも、AKS社の勇気ある決断を期待したい。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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