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これで再発防止ができるのか? 疑問だらけのNGT48 第三者調査委員会報告とAKS会見。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
運営側の会見の最中に投稿された山口真帆さんの告発ツイート

■ 波乱の会見

3月22日、NGT48の第三者調査委員会報告書公表を受けて、AKS運営側が会見を開催、波乱の展開となり、山口真帆さんご本人をはじめ多くの方から非難が殺到しています。

以下の報道などにエッセンスが紹介され、Pageから会見のノーカット動画を見ることができます。

「謝罪を要求されました」AKSの会見中に山口真帆が投稿

私もこの会見には、唖然としました。

会見中にリアルタイムで山口真帆さんから反撃を受け、記者たちからも厳しい追及を受けるも、切実な被害者の声に一切耳を傾けず、幕引きを図ろうという運営側の姿勢ばかりが目立ちました。

山口さんの会見中のツイート。

これでは、信じて待ち続けてきた山口真帆さんは浮かばれません。

私は完全にこの問題の外野ではありますが、黙って見過ごすにはあまりに異常な事態と考え、筆を執ります。

■ まず、なぜ第三者委員会が会見をしないのか。

まず、第一の疑問は第三者委員会が会見をしないこと、これは極めて異例です。

後述する通り、第三者委員会の判断には多大な疑問がありますので、記者としては第三者委員会に直接質問をしたかったはずです。また、山口さんから指摘され、記者からも指摘されている通り、松村取締役自身が調査報告書の内容を正しく理解しているとはうかがわれない点が多々あります。

調査委員会は自分たちの判断に対して説明責任をしっかり果たすべきであり、自らの責任で記者会見をして説明をすべきです。

それを行わないのは説明責任の放棄ではないでしょうか。

■ 十分でない報告書内容

  

  第三者委員会の調査報告書はこちらです。

  被害者である山口真帆さんが全く納得できず、即座に反論せざるを得ないということで、果たして被害者である山口さんから十分な聴取をしたのか、その意を十分にくみ取ったのか、という点で大きな問題があることは明らかです。

  まず、報告書を読んだ率直な感想はレベルが低い、ということでした。例えば、ゼンショー「すき屋」の第三者委員会報告書と比べてみていただけると、この分野に詳しくない方でも違いが認識できるのではないかと思います。

ゼンショー「すき屋」の第三者委員会報告書

  わかりやすいところでいえば、すき屋では、プライバシーを特定しない範囲で、アンケート調査結果等が公表されていますが、本調査では聞き取り調査の詳細は公表されていません。山口さんを含めてメンバー全員に、安全について不安なこと、運営に対して安全面で臨むこと、等、質問して回答を求めなかったのでしょうか。

  また、「提言」という独立した項目がなく、随所に断片的な提言めいた記述があるにとどまり、包括的な提言がなされていません。

  日弁連がまとめた第三者委員会ガイドラインは、

「第三者委員会は、提言を行うに際しては、企業等が実行する具体的な施策の骨格となるべき「基本的な考え方」を示す」ことが必要としていますが、そうした要請を満たしているとは思えません。このようなことで、再発防止の確たる指針といえるのでしょうか。

 これらについては、早晩、第三者委員会報告書格付委員会が厳しく評価することになるでしょう。

■ なぜ聴取も十分でないまま、メンバーの関与がない、と決めつけたのか。

何よりも問題なのは、事実認定です。

一番の問題は、山口さんの主張に反して、メンバーの関与はなかった、と断定している点です。

第三者委員会の報告書の記述は極めてわかりにくいものですが、

・山口さんの自宅に侵入して暴行をしたのは甲と乙(被疑者ら)であり、

・メンバーAが丙という人物から聞かれて山口さんの帰宅時間に関する情報(マイクロバスに山口さんが乗っていたこと)を丙に提供し

・甲はその丙から連絡を受けて山口さんの自宅に向かい、山口さんが自室に入ろうとしたところ顔面をつかむ暴行をしたこと

を概ね認定しています。

 しかし、メンバーAは丙にこうした情報提供をしたことは認めているものの、情報提供したこと以外の関与は一切認めていないため、事件に関与したとはいえない、というのが第三者委員会の判断です。

 これ以外に2名のメンバー(B、C)についても関与が疑われていましたが、BとCは関与を否定していること、そして警察がB、Cについて捜査をしたが、共犯として認められず、事件として立件していないことから、関与したとはいえない、と認定されています。

 それ以外のNGTメンバーについては、被疑者と共謀があったことを示す証拠は確認できず、本件事件に関与したメンバーがいるとは認められなかった、としています。

 しかし、証言が対立しているなかで、山口さんの主張を一方的に否定してよかったのでしょうか。  

 特に、第三者委員会は犯人である甲、乙からも、メンバーとつながっていた丙からも事情聴取の協力が得られなかった、としています。

 そうした調査協力が得られず、調査が尽くされていないのに、被害者の意に沿わない事実認定を早計にしてよかったのか、甚だ疑問です。

 仮に刑事事件で共謀していないとしても、広い意味での関与についてしっかり調査すべきではなかったのか。特に、メンバーが犯人につながる者に山口さんの安全にかかわる個人情報を提供したという事実は重視されるべきでしょう。

 特に今後再発を防止し、山口さんを含めたメンバーへの安全配慮義務を運営側が尽くすためには、個人情報の漏えいの有無は重大な問題としてしっかり調査されるべきではなかったでしょうか。

■ 報告書が指摘したメンバーの関与と「不問に付す」との運営

 第三者委員会報告書は、メンバーの関与がない、と言い切る一方で、懸念すべき事情を断片的ながら記載しています。

 報告書では、

・丙と思われる男性と抵抗なく会話しているNGOメンバーがいて、その内容が現時点の複数のメンバーの行動に関するものであること

・丙と複数回個別にあっていたNGTメンバーがいること

 か認められています。(21頁)。

 さらに、調査委員会が入手した録音テープ(山口さんが事件後に公園で甲に事情聴取をした際の会話。山口さんが提出したと思われます)で甲が話した内容として、報告書には以下のことが紹介されています(21頁)。

・甲が山口さんの部屋番号を知った経緯について、以前に複数のメンバーから聞いたと述べている

・甲が本件事故が発生するからもしれないことを知っていたとして特定のメンバーの名前をあげている

・甲が山口さんの部屋に行くことについて相談していたメンバーがいたような発言をしている

 さらに調査委員会が入手した録音テープによれば、山口さんから「つながって、関わっているメンバー全部言って」と促され、甲が複数のメンバーの名前をあげた、とされていますが、それが誰かはイニシャルのかたちでも公表されていません。

 こうした証拠が出ているのに、なぜ関与がない、と言い切ってしまったのか、甚だ疑問です。

 ところが、メンバーの関与はない、という結論であるため、運営側は、メンバーについては不問に付す、誰も処分しない、との対応を明確にしています。

 このような状況があるのに、不問に付す、何ら対応をとらないということで、どうやって再発防止ができるのでしょうか。

 会見で明らかになったのは、被疑者および丙と本件に関する関与が疑われているメンバーがいることについて、松村取締役がほとんど意に介していない点です。

 報告書にはさらに、12人のメンバーがファンとのつながりをもっているという指摘がヒアリングから得られた、と記載されています。

 しかし、松村取締役は、この報告書をそのまま受け取っただけでそれ以上の説明もなかったため、12人が誰かもきいていない、としています。それでどうやって今後の対応ができるというのでしょう。

 会見の最中に山口さんは以下のようにツイートしています。

 

 驚くべきことに、このような指摘を受けても、会見の最後で、松村取締役は「不問に付す」と言い続けたのです。

 しかし、自分の情報を犯人に「売った」メンバーがいると認識しながら、誰もが何らの処分も受けず、山口さんから引き離す等の措置も講じられないまま、山口さんはどうやってグループに復帰して、どうやって安全を確保していけるというのでしょうか。

 これは学校のいじめや職場のセクハラで、証拠が十分でないからという理由で、声をあげた被害者を、何の措置も配慮も講じないまま、クラスや職場に戻すのと同じことだといえるでしょう。そうしたなかでは、報復によりさらなる被害が発生する危険性があります。

 問題に蓋をすることが良いはずがない、このことは明らかでしょう。

※なお、ファンとつながることそのものを処分対象にすべきとか、「恋愛禁止ルール」が徹底されるべきということではないのはもちろんです。問題は他のメンバーの情報を売ること、個人情報漏えい等により他のメンバーの安全を危険に陥れるような事態です。

 AKB48 恋愛禁止の掟って、それこそ人権侵害ではないか。 

■ 山口さんが告発する、取締役による「謝罪の強要」

 さらに会見中、山口さんは、

 

 とつぶやきました。

 1月10日の山口さんの謝罪については、「なぜ被害者が誤りなければならないのか? 」と多くの人が疑問を呈しました。

 国際ニュースにもなり、日本のアイドルはひどい人権状況に置かれている、として大問題となりました。

  参照:CNNニュース

 その舞台裏にこうした運営による謝罪の強要があったことは想像に難くありません。

 しかし会見の場で、松村取締役は山口さんの告発を明確に否定し、会見は騒然としました。

 このような事態で、信用が回復できるはずがありません。

 被害者なのに謝罪させられた、というのは、運営のコンプライアンスの異常さを示すものとして、当然第三者委員会が経緯を調査すべきであったのに、なぜこの点が調査報告書に明記されなかったのか、甚だ疑問です。

 問われているのは、あえて強い言葉でいえば、アイドルを人間としてその人権を十分に尊重せず、商品として矢面に立たせ、何か問題が起きても彼女たちを矢面に立てて犠牲にするという体質ではないでしょうか。その象徴的な出来事が「謝罪」にほかなりません。

 記者会見は第三者委員会の調査の不十分さとともに、AKSの自浄能力への深刻な疑念を浮き彫りにしました。

■ 幕引きは到底許されない。

 非は明らかに、山口さんに対する安全配慮義務を尽くしていない運営側にあり、根本的な反省が求められていると思います。

 ところが、会見の場で山口さんから出された告発をそのまま無視し、疑惑に蓋をして、正常化ができるはずはありません。

 被害者に寄り添った対応とは到底いえないでしょう。

 運営側は「コミュニケーション」を再発防止策として強調しますが、被害者の言い分を完全否定してどのようなコミュニケーションが成り立つのでしょうか。再発防止などできるはずがありません。

 このままの幕引きは到底許されません。

 山口さんを含め、メンバーたちは、運営側と対立したとしても、契約上の「機密条項」により、独自の情報発信を妨げられてきたのではないでしょうか。

 しかし、運営側と決定的に対立している状況において、山口さんが発言機会を奪われているというのは極めて問題です。山口さんが何ら報復を受けることなく、自由に発言できる発言機会をつくる必要があるでしょう。運営側はそれを妨げてはならないと思います。

 そもそも、検察がなぜ本件を不起訴にしたのかも問われるべきでしょう。検察審査会への申し立ても一案かもしれません。また、運営は民事訴訟を提起するような言及をしていましたが、民事訴訟をするとすれば、見解が異なる運営ではなく、山口さん本人が主体であるべきでしょう。

 こうしたなかで、屈せずに発言する山口さんに心よりエールを送ります。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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