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日本の「対韓輸出規制」発表を韓国メディアはどのように報じたのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
対韓輸出規制を発表した経済産業省(写真:西村尚己/アフロ)

 日本政府は昨日(1日)、スマートフォンやテレビに使われる半導体などの製造に必要な素材3品目の韓国向けの輸出を規制する方針を発表したが、この電撃的発表を韓国メディアは一斉にどう報じたのかをそれぞれの見出しからチェックしてみた。

 韓国で最も発行部数の多い保守紙「朝鮮日報」は「対日外交無能、無対策のため輸出で唯一希望の半導体まで揺れる」と韓国政府の対日外交を正面から問題視していた。

 同紙はそれなりに国民情緒を意識してか「(元徴用工の訴訟に関する)韓国司法判決を問題にして韓国政府に解決を迫る日本政府の態度も理解に苦しむが」と「断り」を入れながらも「反文在寅メディア」に相応しく「韓国政府も事態を放置し、対日外交の無能、無策をさらけ出したとの指摘がある」と書いていた。

 同じ保守系の「東亜日報」は「日本 半導体素材など韓国輸出規制強化・・・徴用判決報復」との見出しで日本の規制措置は「徴用工判決への事実上の報復措置である」と断じ、保守系3大紙のもう一紙である「中央日報」も「日本政府 経済報復へ」と、「政治報復ではない」との日本側の主張とは正反対に今回の日本の規制強化は「報復である」と報じていた。

 比較的政府寄りと言われる「京郷新聞」は「日本、徴用判決に経済報復・・・韓国 WTOに提訴」と「東亜日報」及び「中央日報」とほぼ同じ見出しだが、左派系と称される「ハンギョレ新聞」は「サムソン電子、ハイニックスは超緊張 長期化した場合、日本も墓穴?」が見出しで、意外にも「報復」という言葉は使わなかった。それでも日本の措置はブーメランになって日本に跳ね返ってくるだろうと、日本を牽制していた。

 中立系の「韓国日報」は「日本経済報復 半導体素材は始まり・・・通商戦争に火が付く」、「ソウル新聞」は「サムソン・SK、日本の規制に備え2~3か月分の在庫確保・・・貿易戦争はないかも」と日本の措置が両国間の「通商戦争」あるいは「貿易戦争」に発展することへの危惧を表していたが、「国民日報」は「日本の報復措置は墓穴?・・・日本企業も被害を憂慮」と、日本の規制措置は中長期的には韓国企業の「脱日本」を誘発することになり、そうなれば、「日本の韓国輸出企業も痛手を被る」と「ハンギョレ新聞」と似たような論調を展開していた。一方、現代財閥系の「文化日報」は「日本政府 徴用裁判報復開始 なぜこのような状況に陥ったのか」との見出しの記事で後手に回った韓国政府の対応の拙さを批判していた。

 韓国経済紙では「毎日経済」が「安倍の奇襲挑発・・・経済戦争砲門」との過激な見出しを掲げ、「日韓の政治・外交葛藤に日本が奇襲的に経済報復に出た。日本が韓国に対する輸出を対象に経済報復に出たのは事実上、今回が初めてである」と、事の深刻性を強調したのに対して「毎日経済」のライバル紙である「韓国経済」は「朝鮮日報」同様に文政権の対日外交を問題視し、「対日外交不在・・・結局企業に高い請求書が」の見出しを掲げていた。また、「ヘラルド経済」は「日本の経済報復は本格化するか・・・サムソンなど脱日本も」との社説を載せていたが、「日本の劇薬的な措置が長期的には日本に副作用を生むことになる」と「国民日報」や「ハンギョレ新聞」と同じ論調だった。

 テレビ媒体では「YTN」が「G20で公正貿易を叫んだ安倍・・・韓国に報復 経済制裁発表」と、安倍政権に批判の矛先を向け、「SBS」もまた「日本、韓国の核心産業のアキレス腱を狙ったのか 政府 WTO提訴」と大きな扱いだった。視聴率の高いJTBCは「日本版レアアース報復の威力・・・韓国経済に及ぼす波長」と韓国製造業に及ぼす影響を伝えていた。

 韓国では特定物品の輸入中断は韓国によるWTO(世界貿易機構)への提訴の可能性もあり、「国際法秩序」を強調する日本の立場とも矛盾することから踏み切らないだろうとの楽観論があっただけにショックは相当大きかったようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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